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  ……──  俺が教室に戻ると、何故か教室の前に人集りが出来ていた。何かトラブルでもあったのかと思い、人集りを掻き分けて教室の中へ入ると、 「ねーしずりー藤原まだ帰ってこねーの?」 「俺もどこ行ったか分かんないんだよねー」 「……」 戸田と謎の美女二人が椅子に座って話をしていた。  一人は紺色のセーラー服。緩くカーブを描くブロンドヘアを手の甲の上に滑らせる動作だけを見ていると、ハリウッド女優を思わせた。真ん丸に開かれた大きな目は、戸田の冗談に合わせて少し縦に潰れ、どうしようもなく惹き付けられてしまう。際どい丈のスカートの裾からのびる綺麗な生足に、男性だけではなく、女性まで見惚れていた。  もう一人は藍色の落ち着いた着物を着ているのだが、肩幅が狭いのか着物が落ちかけて、磁器のように滑らかな白い肩が見えていた。伏せられているため顔はよく見えないが、薄く桃色がのった唇と、背中まですとんと真っ直ぐに落ちた烏羽色の髪のコントラストに心を掴まれてしまいそうになる。  しかし、それだけでこんなにも注目されはしない。ここまで注目を集めているのは、その美女の声がまるっきり男だったからだ。  ただ声が低いとかそんな次元じゃない。完全に男しか出せない声だ。教室内にいた周りの女性客たちも、驚いた表情で戸田たちを見ている。  そして、この声は──。 「すず、き……?」 「ん? あ、藤原! おかえり!」 「聖ちゃん帰ってきたのね! 良かった良かった!」  近くに来た俺を見て立ち上がるセーラー服姿の鈴木。その頭が俺より少しばかり高い位置に来て、周りから驚きの声があがる。 「何だ、その格好……」 「言っただろー! 俺達女装喫茶やんだって」 「だからって、そのまま来るのはどうかと思うぞ……?」 「午後からまだ接客あるから着替えんのめんどいしー」  どうよどうよ、と笑顔で聞いてくる鈴木をかわして、隣にいるもう一人を見下ろす。  ずっと俯いている着物の美女。──顔は見えないが、多分あの顔なら美女になっているだろう。  セーラー服が鈴木なら。 「長谷川か」 「……見るな」  地を這うような低音が聞こえてきた。当たりのようだ。  鈴木が座っていた席に座って、俯いている長谷川の顔を下から覗き込む。突然現れた俺の顔に、驚いたように顔を上げる長谷川。その顔を見て思わず息を呑んだ。 「──これは……」 「な、すげえだろ?」  俺の肩に腕を置きながら鈴木が自慢げに言った言葉に、口をぽかんと開けて頷く。

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