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鈴木はぱっと見た感じでは女性らしいが、じっくりパーツを見ていけば、男だと思わせる部分が幾つかある。だが、長谷川はどこから見ても完全に綺麗な女性としか思えなかった。
いや、中性的な綺麗さと言った方がいいのだろうか。
「もう大変だったんだぜ? 漣超人気で引っ張りだこでさ。俺も綺麗なのにー」
「背がもうちょい低けりゃいけたんじゃない?」
「あー伸びすぎちゃったかー! でも漣も同じ身長のはずなんだけどなあー?」
拗ねたような鈴木に戸田がフォローする。そのフォローに大袈裟に乗っかる鈴木は、長谷川を横目で見ながらニヤついている。
確か、俺がここに来た当初は長谷川の方が幾分か背が高かった筈だが、夏休み明けには、鈴木と長谷川の目線は同じ位になっていた。長谷川はそれがあまり気に入らない様子で、身長の話を出すと目に見えて機嫌が悪くなる。それを分かっていて、鈴木は今のようによく長谷川を煽っていた。
「……藤原」
ずっと黙っていた長谷川が、案の定不機嫌そうにチッ、と舌打ちをした後、俺を呼んだ。
「ん?」
「お前も女装しろ」
「は? ちょっ」
下を向いたまま勢い良く立ち上がった長谷川にいきなり腕を掴まれる。その力が異様に強く、何事かと痛みに顔を歪めながら長谷川に問いかけた。
「長谷川、何言って……」
「俺達友達だろ?」
顔を上げた長谷川が微笑みながら俺に言う。その綺麗な笑顔を見せられて、暫し見とれて。
「友達の頼み聞けないのか?」
「は、ちょ、友達って」
「と も だ ち だ ろ ?」
般若にも見えるどす黒いオーラが長谷川の背後に見えて、俺は何も言えずに頭を上下に振るしかなかった。完全にとばっちりだ。
「戸田、藤原借りるぞ」
「お、藤原召喚すんのか!」
目を輝かせて嬉しそうに言う鈴木。召喚ってなんだ、人をモンスターみたいに言うな。
「あーその前にりっちゃんが聖ちゃんに話あるから、それからならいいよ!」
りっちゃーん、と戸田が神沢先生を呼ぶ。いや、断れよ。自分のところのキャストが連れていかれそうになってるんだぞ。
戸田に呼ばれた神沢先生は振り返って面倒臭そうな顔をしたが、俺の姿を認めると小走りでこっちへ来た。
「何を言われた」
開口一番、単刀直入に問われる。心配そうな神沢先生の顔を見ながら、俺は小さな声で赤髪から告げられた言葉を口にした。
「──……俺のことが好き、だと」
俺の回答を聞いて、神沢先生は大きな溜め息と共に、だろうな、と吐き出した。
だろうな、ということは、神沢先生は赤髪の気持ちを知っていたということだろうか。そういえば、神沢先生は赤髪が俺を庇った理由を『俺からは言えない』と濁していた。庇った理由が俺への好意だとすれば、神沢先生はいつその好意に気付いたのだろうか。
そんな疑問が頭の中を駆け巡り、言葉の意味を聞こうと口を開く前に、また神沢先生からの問いかけがあった。
「で、どうしたんだ」
「……何やかんやあって──友達に、と」
俺がそう言うと、神沢先生は目を丸くして次に眉間に皺を寄せた。
「友達って、お前いいのか」
その言葉に秘められた意味は言われずとも分かる。赤髪は俺を犯した張本人だ。レイプした奴と友達になるなど、いくら相手が反省していると言えど、普通では考えられない。
もちろんただ仲良しこよしの友達になるわけはない。ちゃんと目論見はある。
「止めてくれるそうで。俺が発狂したときに。あいつなら、心置きなく迷惑かけられるんで」
ちょっとした冗談を最後に混ぜると、神沢先生は安心したように顔を崩し、苦笑した。
少し、嘘も吐いたけれど。
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