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 恐らくメイクに使うのであろう大小様々な道具たちを、テキパキと大きな箱──鞄のようにも見える──に詰めていくその男子生徒は、俺達が入ってきたのに気付いたのか、顔を上げてこちらを見た。  失礼な物言いになってしまうが、顔は至って平凡だった。容姿が良い部類ではないが、悪い、というほどでもない。『普通』という言葉を身をもって体現しているような容姿だ。一度も染められたことのないであろう黒髪は短くもなく長くもなく、若干前髪のかかった目は二重ではあるがぱっちりとは開いていない。鼻の高さも唇の薄さも平均的で、人混みに紛れ込んだら多分見つけられないだろう顔立ちだ。 「長谷川に鈴木じゃないか。どうしたんだい?」  顔からすると意外なほどに低い声が問いかける。 「茅野(かやの)、こいつに接客手伝わせるから、女にしろ」 「長谷川は本当に人使いが荒いよね。んんー、どれどれ」  茅野と呼ばれた男子生徒は、笑顔でそう言って、俺の顔をまじまじと見つめてきた。  緊張しながら顔の隅々まで嘗め回すような視線に耐えていると、茅野の顔が段々楽しげな表情になっていくのが目に見えて分かった。 「凄い! これは上物だよ! 腕が鳴る!」  少しして俺の顔から目を離した茅野は、嬉しそうに感嘆の言葉を漏らす。 「とびっきり綺麗にしてくれよー!」 「もちろんだ。どんな風にしようか……」  茅野がうーん、と唸りながら考え始めたので、俺は小声で長谷川と鈴木に聞く。 「こいつ誰だ?」 「茅野宗嗣(かやのそうし)。外見こそ垢抜けてないけどな、メイクの腕はプロ級なんだよ。ちなみに腐男子だったりする」 「花咲と同類か……」 「そそ。よく二人でBL談議してんぜ」  藤原の名前も結構出て来んの、と鈴木が笑う。それを聞いて俺は顰めっ面になった。  勝手に他人で妄想するな、花咲。  心の中で花咲に注意していると、茅野が不意に声を上げた。 「よっし! 決まった。あ、長谷川と鈴木は廊下で待っていてくれ」 「りょーかい! 楽しみに待っとくぜ、聖ちゃん?」 「黙れこの野郎」 「ぐえぷっ」  ニヤニヤした顔で俺の肩に手を置いた鈴木の鳩尾に、一発拳を叩きこんだ。腹を押さえて悶える鈴木の首根っこを長谷川が掴んで、そのままずるずると入口の方へと引きずっていく。 「じゃあよろしく頼んだぞ」 「任せなさい」  振り返ってそう言った長谷川の言葉に自信満々な顔で頷いた茅野を見て、俺はどうなってしまうんだ、と言い知れぬ不安を感じた。

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