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長谷川たちが出て行くと、メイクが崩れると駄目だから、とまず服を着替えさせられた。茅野が勝手に選んだ、夏らしい水色の五分袖のロングワンピースを身に付ければ、股下に風が入る感じ慣れない感覚に少し内股になってしまった。
俺が着替えている間に、茅野は何やら鏡にシートを貼っていた。どういうつもりなのだろうか。
着替え終わったことを伝えると、シートを貼った鏡の前の椅子に座らされ、ウィッグを被せられる。初めて首全体に髪の毛が触れる体験に、夏なのにぞくりと鳥肌が立った。
その髪の毛を何やらいじって、その後ようやくメイクが始まってから半時間程。
「──よし、出来た」
茅野が満足そうに俺から離れた。
鏡にシートが貼られているため、化粧をされていく自分を確認することが出来ず、俺は自分の顔が今どうなっているのか分からない。ただ顔に色々と何かが塗られているのが気持ち悪い。今すぐ全部洗い流してしまいたい。
「やっぱり元がいいと出来上がりも凄く良い。小細工もあまり要らなかったし、薄化粧で女性らしい美人にすることが出来たよ。声さえ出さなければ男だなんてバレないはずさ」
「はあ……」
「そういや名前聞いてなかったね?」
「藤原聖だ」
瞬間、茅野のメイク道具を片付ける手が止まった。
「ふ、藤原聖って、まさか──」
そう言われた直後、ガシッ! と肩を強く掴まれる。目の前にはメイク時よりも真剣な茅野の顔。
山中の件、か?
「いつも萌えをありがとう!」
「へ?」
予想だにしない言葉に、思わず素っ頓狂な声が口から出てしまった。
ポカンとした表情になる俺を無視して、茅野は鼻息荒く語り出す。
「まさか本物に会えるなんて! 花咲から君の話しは沢山聞いているよ! 花咲の話から想像できる君は、受けでも攻めでも違和感がなくてどんなカップリングでもいけるし、本当に毎日楽しませてもらっているよ。ただ、本人を目にすると、やっぱり自分だけで妄想しているよりも、花咲と妄想しているときの方が君の魅力が存分に出ているな。花咲の妄想は自分の数倍上を行くからなあ」
さすが自分の師だ、と頷く茅野。
俺にはその怒濤の感想を途中から聞き流していた。茅野の発言の内容を理解できてしまうことに頭を抱えた結果だ。
内心でこれでもかと言うほど大きな溜め息を吐きながら席を立つと、茅野がドアを開けて長谷川たちを呼んだ。律儀に廊下で待っていたようだ。
入ってくるなり、目を見開く長谷川と鈴木。
やっぱり気持ち悪いみたいだな。そりゃそうだ。茅野はああ言っていたけど、自分が化粧した手前、褒めるしかなかったんだろう。まず俺に女装させること自体が間違いだ。
少し経ってもまだ口を開けて呆然と俺を見ている二人から顔を逸らした。
「そんなに無理して見なくていい。茅野、化粧落としてくれ」
「なーに言ってんの駄目に決まってんじゃん!」
返事をしたのは茅野ではなく鈴木だった。
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