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 いきなりの轟音に身の危険を感じた俺は、咄嗟に教室から逃げだそうとする。が、肩は鈴木に既に掴まれていて、さらに長谷川には腕を痛いほど強く掴まれて逃げられず。 「がっつり稼げよ……?」  背後にどす黒いオーラを漂わせる長谷川。本物を見たことはないが、そちらの筋の人だと言われても信じてしまうほどの迫力を醸し出している。 「待て待て待て、落ち着け長谷川。俺、何にもお前にやってな……」 「見るなって言ったのに見たよな?」 「い、いや、それはその……」 「問答無用だ。ほら、行ってこい」  微笑んではいるが口元をひきつらせた長谷川に反撃の余地もなく、ひーたん! と叫びまくる男たちの中に俺は放り込まれた。  それからはもうてんやわんや。  みんな何が楽しいのか、俺のことを口説いたり写真を撮ったり。  騒ぎに乗じて俺の体を触る奴らもいたが(後から聞いた話だが、長谷川たちもこいつらに触られていたらしい)、俺が手を出す前に長谷川がすかさず手首を捻りあげてくれた。感謝すらしそうになったが、こうなったのは元々は長谷川のせいなので当たり前のような顔をしておいた。  調理係だったはずの花咲も、どこから情報を嗅ぎつけたのかいつの間にか戸田と共にDクラスに来ていて、鼻息を荒くしながら色んな角度から写真を大量に撮っていた。  もちろんカメラはその場で没収。花咲は泣きそうな顔をしていたが、嘘泣きだとバレバレだったので無視してやった。ついでに、元凶の戸田にはヘッドロックをかましておいた。  その後にこれまた誰から聞いたのか、Dクラスに来た赤髪がとんでもないことをやらかした。  公衆の面前で、いきなり俺の口を赤髪のそれで塞いだのだ。  直後に俺の拳と長谷川の蹴りが赤髪の体に叩き込まれて、少し怯んだ隙に教室から追い出した。常人なら完全にノックアウトしているであろう力を込めた筈なのだが、やはり赤髪は相当タフならしい。  その光景を見て客の男たちは怯えたのか、それ以降俺たちに手を出してくる奴はいなくなった。  むしろ赤髪が来てくれて良かったのかと思う。いや、良くないな。全くもって良くない。  二時間だけの特別ゲストのはずだったのに、気付けば閉店ギリギリまで接客をさせられた。我ながらこれとない働きで相当稼いだと思う。 「はあ……」  ウィッグをとって化粧を落とし、制服に着替えてやっと一息つく。ただ食べて飲んでをしていただけなのに、えらく疲れてしまった。  衣装のスーツを更衣室のロッカーに突っ込み、Eクラスへ戻れば、しん、とした教室には神沢先生しかいなかった。 「お、やっと戻ってきたか」 「先生が許可出すからですよ」  俺の姿を認めて椅子から立ち上がった先生の前には、何やら帳簿らしきものがある。その横に雉学祭の専用通貨となっている紙が束になっていた。売り上げの確認でもしていたのだろう。 「かなり盛り上がってたらしいじゃねえか」 「周りが騒いでただけですけどね」  溜め息混じりにそう言えば、先生は軽く笑い声をあげたあと、俺の側に来て優しく頭を叩いた。 「少しは楽しめたか?」 「……はい」  俺の返答に、頭に乗せられた手がくしゃくしゃと髪を混ぜるように動く。 「圭佑は明日の仕込みがあるらしいから、今のうちに帰って寝とけ」 「でも……」 「圭佑を部屋まで送るついでに俺が止めてやるから」 「……ありがとうございます」  先生の好意を素直に受け止めて教室を出れば、いつもの制服姿に戻った長谷川も同じタイミングで隣の教室から姿を現した。

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