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「──っああ゛ああぁ゛ああっげほげほっ……! ……は、……っ」
またあの夢を見て目を覚ます。今度は思いっきり叫んだが、途中で喉が枯れたようで強制的に叫びを止めることができた。思った通りの結果に、まだ咳を生み出す喉を押さえながら長谷川を恨む。だが、あれだけ酷かった頭痛は全くしなかった。
ベッドから出てリビングへいき、丁寧にラップで包まれた花咲の作った朝食を温めて食べて、制服に着替え部屋を出た。その頃には喉の調子も随分良くなっていた。
人気のない寮はとても静かだった。まるで世界に自分一人になったような気分だ。だが、そんな気分も学校に近付けば、途端に喧噪といってもいいほどの活気に微塵もなく消え去る。
その煩さに少しだけ顔を顰めながら、花咲の言っていた調理室を見つけて中に入った。
「花咲」
ドアの近くから一言そう声をかけると、作業をしていた花咲がパッとこちらを向いた。
「あ、藤原君! もう大丈夫なの?」
「ああ」
「良かった。ちょっと待っててね」
エプロンを脱ぎながら周りのクラスメートに何やら指示をすると、花咲は駆け足で俺の方にやって来る。その姿がまるで犬のようで、少し笑ってしまった。
「ん? どうしたの?」
「いや、何でも」
「よし、じゃあ行こっか」
花咲に手首をとられ、手を引かれながら調理室を出る。そのまま花咲がまず向かったのは、俺たちのクラスの教室。
そういえば一度目に起きたときに、花咲が長谷川に代わりに働いてもらうとか言ってたな。昨日は女装、今日はホストか。
そんなことを呑気に考えながら教室の近くまで来ると、廊下に長蛇の列が出来ていた。辛うじて見える先頭はEクラスの教室の入口のようだ。
まさかこれ、全部うちの客か。
凄いな、と素直に感心して人混みを分け入って何とか教室に入ると、Eクラスの生徒に混じって長谷川と鈴木が接客していた。
その長谷川が教室に入ってきた俺たちに気付いて近寄ってくる。そして、開口一番すまん! と頭を下げた。
「昨日のチョコを渡してきた奴が今日も来ていたから問い詰めたら、どぎつい酒を練り込んであったみたいで」
「酒……?」
あの苦味が酒の味、だったのか?
そもそも食べた辺りの記憶が曖昧でいまいち思い当たらず、んー、と考え込んでいると、花咲が頬を膨らませて長谷川を睨んだ。
「そういえばやけに藤原君からお酒の臭いするなって思ってたら……もう漣君!」
「いや、本当に悪かった。まさかとは思ったんだが……。体調は大丈夫なのか?」
眉尻を下げて俺の表情を伺ってくる長谷川に、苦笑しながら大丈夫だ、と返す。
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