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 まず向かったのは、学園祭なら一クラスはやっているであろうお化け屋敷。二年のEクラスの出し物である。  学生の学祭としてはなかなか本格的な造りのようで、おどろおどろしい字で『お化け屋敷』と書かれた看板がかかった薄暗い入口から、定期的に悲鳴が聞こえてくる。キャー、などという生易しいものではなく、喉が働く限り叫んだような本気の悲鳴だ。  そしてここで花咲の弱点が発覚。 「ふふふ藤原君離れないでね、ぼぼぼ僕が守るからねっ」  お化け屋敷に入ってすぐ、震えた声で強がりを言いながら花咲が俺の腕に縋り付く。完全に怖がっているのは丸分かりだ。花咲とは反対側にいる戸田も、声を殺して笑っているのが息遣いで分かった。そんな花咲の様子が面白くて、お化けが怖いなんて可愛らしいな、なんて思いながら笑っていた俺が馬鹿だった。  それは、入口から少し進んだところにある、わざとらしく電灯が一つだけつけられた場所で、物陰から頭に斧が刺さって血を流している幽霊がふっ、と俺たちの前に出て来たとき。  突然の出来事に、花咲は目を見開き歯を食いしばるように口を横に開け、ひっと小さく息を漏らしたと思えば。 「っぎゃあああああああああああああ!!」  普段からは想像もできない程の凄まじい叫び声をあげて、一目散に通路を走り出したのだ。 「おわっ」  花咲は俺の腕を掴んでいたので必然的に花咲に物凄い力で引っ張られる。 「えっ」  思わず横にいた戸田の腕を掴んだため、俺たちは三人連なったままたった一分かそこらでお化け屋敷を抜け出してしまった。途中、脅かし役の人たちが前に出る暇もなく物陰からこちらを呆然とした顔で見ていたのには、俺が悪いわけではないが申し訳なさを感じた。更に言えば、花咲の逃げるときの形相が必死すぎて逆に怯えている生徒もいたぐらいだ。  そんな感じでお化け屋敷を荒らした花咲だったが、脱出して少し経つとすぐにいつも通りになり、平然と怖かったね、なんて笑顔で言って来るもんだから、花咲がな、とは言えず。  内心楽しみにしていたお化け屋敷を充分に楽しめず、ちょっともやもやとした気持ちのまま、次の所へ向かった。

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