172 / 281

*

 次は縁日。これは三年のDクラスが出している店だ。  教室に入ると、射的にスーパーボールすくい、ヨーヨーつりや輪投げなど、名前の通りよく縁日にあるようなゲームがいくつかあった。子供でも楽しめるものがあるからか、俺たちのクラスよりも幅広い客層だ。  俺と戸田は射的、花咲はスーパーボールすくいを選んで、それぞれその場所へ行く。  射的のブースを近くで見てみると、どうやら玄人向けと初心者向けがあるらしく、玄人向けの方は距離が初心者向けよりも遠く的も格段に小さくなっているようだ。迷うことなく二人とも玄人向けの列に並んで、順番を待っている間に戸田がある賭けを持ち出してきた。 「ねえ聖ちゃん、射的で俺が勝ったら一日でいいから聖ちゃんのこと好きにさせて?」  ニヤッと不敵な笑みを浮かべて俺の顔を覗きこんでくるのを、頭を掴んで押し返す。痛い痛いと喚く戸田に、呆れながら言葉を返した。 「俺が勝ったら何が貰えるんだ」 「俺を一日好きにしていい権利!」 「要らない」 「酷い!」  戸田が泣き真似をしているうちに順番が回ってきて、俺が射的の銃に手をかけた瞬間、横から銃を奪い取られてしまった。戸田は俺から奪った銃にさっそくコルクを詰め、狙いを定める。その顔がいつになく真剣だったので邪魔するのは申し訳ないと少し離れると、広がった視界に映った周りにいた女性客が、みんな戸田を見て騒いでいた。  そういや忘れてたけどイケメンだったな。顔だけなら。  そんな周りの声にも珍しく反応せず、次々に五発撃って、当たったのは四発。五月蝿いくらいに降りかかる黄色い声に嫌な顔もせず、笑顔で流しながらどうよ、と自慢してくる戸田。 「まあ見とけ」  俺はそう言って先程の仕返しのように戸田から銃を奪い取る。そして、コルクを詰めて狙いを定め、的に向かって引き金を引く動作を流れるように合計五回。戸田がより速く撃ち終え、コルクは五つの的を倒していた。周りからさっきよりも大きな黄色い声に加え、拍手まで沸き起こった。何食わぬ顔で銃を机に置いて戸田へ目を向けると、酷くふてくされた表情でこちらをじっと見ている。 「聖ちゃんずる……そんなの聞いてないっ」 「言ってないからな」  そう返したら、「聖ちゃんの馬鹿っ! 大人げない!」と叫ばれた。いやお前同い年だろうが。

ともだちにシェアしよう!