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「あまり時間もないので、単刀直入にお話しさせていただきます。こいつが、あなたが会いたいと望んだ加害者です」  俺を手のひらで差した先生の言葉に生唾を呑み込み、無意識に震え出した口をなんとか制御する。 「藤原、聖です」 「……山中康生(やまなかこうき)の母です」  薄く引かれた桃色の唇が小さく動いた。俺に突き刺さる視線は、鋭さはあるものの恨みや憎しみといった感情は持っていない。 「あの子は、あなたのお友達を襲ったそうですね」  あくまで穏やかな声色で告げられて小さく頷くと、山中の母親はぽつぽつと語り出した。 「あの子には、腹違いの兄がいるんです。夫の前妻の子ですが、とても賢い子で病院の跡継ぎとして夫やお義父さんやお義母さん、親族たちの期待を背負ってとても可愛がられていました。あの子も、そんな兄に追い付こうと頑張っていました。今思えば、あれは自分に対しても愛情を注いでほしかったからなのかもしれません。でも、中学に上がった途端、勉強についていけなくなったみたいで、次第に言葉数も少なくなって、無断外泊や欠席が増えていったんです。私も、その時は兄の大学受験のための世話で、あの子を蔑ろにしてしまっていました」  そこで、彼女は一旦口をつぐんで目を伏せる。吸う息と共に肩を上げて落とし、まぶたを持ち上げてまた俺に視線を向けた。 「……あの子が逮捕されたのは、十五歳になる前日でした。中学でつるむようになった、がらの悪い仲間と一緒に。元々あの子に無関心だった夫たちは、一族の恥だと怒り狂って、その矛先は私に向きました。お前の育て方が悪いんだ、出来損ないの子は出来損ないだなって」  潤んだ瞳が、またまぶたに隠される。膝の上に置かれた手に血管が浮き出るほど、強い力で自身のスカートを握り締めていた。 「私があの子をちゃんと見ていたら、逮捕されることも、あなたのお友達を襲うことも、あなたがあの子を手にかけることもなかったのに──」 「っ違います!」  その後の言葉を言わせまいと、声を荒げて遮った。山中のせいじゃない。ましてや、この人が悪いことなんて、一つもない。 「……自分は、俺は、山中を自分の欲望のために殺しました。人を殺したいという欲望のために、あいつを殺したんです。きっかけは友人が襲われていたことだとしても、俺は、俺自身のために殺したんです」  絞り出す言葉が、俺自身の首を蛇のようにじわじわと締め付ける。彼女の顔が驚いたような表情から、次第に悲しみを含んだ表情へと変化した。 「あの子だから、命を奪ったわけではないということですか?」 「……はい。誰でも良かったんです。ただ、目の前に山中が居ただけで……あいつは、俺の餌食になった」  いわば、俺は通り魔だ。そして、山中は不幸にもその標的にされてしまった哀れな存在。 「……あの子は、最後まで誰からも見てもらえなかったんですね」  歯を噛み締め、ほんの小さな音量で吐き出された言葉。  それは、違う。あいつは、山中は。  俺が反論する前に、彼女が言葉を続けた。 「それでも、私は自分自身を責めることはやめられません。あの子が雉ヶ丘に入ってしまったのは、私がちゃんとあの子を見てあげられなかったから。……でも、あなたのことを許すこともできなくなりました」 「……はい。俺は、貴女に何を言われても何をされても、全てを受け止める覚悟で来ました」  俺の言葉を受けて、彼女は俺へと身を乗り出して、一段と強い口調で言い放った。

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