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「──これは命令であり、義務です。あなたは、あの子の事を一刻たりとも忘れてはいけない。常に、あの子をあなたの頭の中へ置いておくのです。あの子が生きた証を、あなたの頭へ、脳へ、心へ、決して消えないように深く刻み込んでほしい。あなたが生きている限り、あの子は生きた証を残すことができる。だから、一秒でも長く生きなさい」
何度か肩を上下させ、彼女は唇を引き結びながらゆっくりと体を後ろへ引いた。そして、一度閉じられた口が、再び開かれる。
「そして、私もまた、あの子を──康生を、思い続けて生きていきます。自分が康生に対して犯してしまった罪を抱えて、もうあの子が寂しくならないように」
「──わかり、ました」
また、俺は生の鎖に繋がれてしまった。逃れられない罪をぶら下げた、呪いの鎖に。
彼女は、一分ほど目を瞑り、もう一度開いた目を先生へと向けた。
「玄関までお送りいたします」
「……お言葉に甘えて、お願いします」
先生の返事を聞き終わらないうちに、彼女はソファーから腰をあげていた。咄嗟に、俺はやり残したことを口にしていた。
「線香だけでも、あげさせてもらえませんか」
「……仏壇も、墓もないんです。許されなかったので」
振り返ることもせず、そう返事をした彼女の声は震えていた。すみません、と呟いて、大人しく来た通路を戻り、玄関を出る。
「それでは、私はここで」
「──山中は、仲間を庇って刺されました。その仲間は、山中の仇だと、俺に向かってきました」
引き戸を動かしかけた山中の母親の手が、ぴた、と止まった。その手が動き出さないことを確認し、言葉を続ける。
「山中を見ている人は、間違いなく存在しています。……それだけは、分かっていてほしいと思って」
彼女の反応を見るのが怖くて、地面に視線をやったまま、失礼します、と頭を下げて踵を返した。石の通路を進み出した俺の後ろで、先生の別れの挨拶が聞こえ、足音がどんどん近づいてくる。追い抜きざまに俺の髪がぐしゃ、と無造作にかき乱されたが、それを直す気力はもうなくなっていた。
門の扉をくぐる際に、一度だけ振り返った先には、少し開いた玄関の扉の向こう側でこちらに背を向け、うずくまる彼女の姿があった。
そして改めて始まった二学期。
二学期は夏休み中に捕まる学生が多いので、転入生も大量に入ってくるらしい。
まあEクラスだったら危険な奴も入ってこないだろうし、何も問題はないだろう。
そう呑気に考えながら、また学業に追われる日々を思い浮かべて溜め息を吐いた。
「ここか……」
その認識は甘過ぎたのだと。
「くくっ……、楽しみだなぁ」
過去の自分が残した負の遺産が、ここに来て自分に牙を剥くことなど。
「……藤原ァ」
その時の俺は知る由もなかった。
二学期、始業。
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