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「し……」 「し?」 「小学五年生のワークじゃんかああああああ!!」 「ぶふっ!」  思わず盛大に吹き出してしまった。どこをどうしたらそんな間違え方をするのか。そもそもどこから持ってきたんだそのワーク。  体をくの字に曲げて声を押し殺して笑う俺に、涙目になった戸田が眉をつり上げて頬を膨らませた。 「ちょっと! 聖ちゃん何笑ってんの!?」 「っくく……だって……っあははは!」 「え、あ、聖ちゃん……?」  我慢しきれず声をあげて笑う俺を、戸田は涙を目の端に溜めたままポカンとした表情で見る。  その表情を視界に認めてすぐに笑いは止まり、何故鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしているのか不思議に思って首を傾げてみると、はぁ、と呆れたように溜め息を吐いた戸田が教室のみんなを見て、と言った。言われたとおりに教室内を見回すと。 「……俺変なことしたか?」  教室内にいる全員が、示し合わせたように先程の戸田と同じようなポカンとした表情で俺を見ていた。  何故だ。そんな呆気にとられるようなことをしたつもりはないんだが。 「聖ちゃん、今声あげて笑った。俺達、初めての光景。ビックリギョウテン。オッケー?」  何で片言なんだよ。  だが、教室の皆がその表情のまま首を縦に振っているのを見るに、良く分からないが戸田の言い分は間違ってはいないんだろう。  だが、この視線は正直──耐え難い。 「……ちょっと屋上行ってくる」 「えー! もうすぐ一時間目始まるよ? あ、まさかSクラスの奴に会いに行くの!?」 「違う、この視線に耐えられないからだ」 「なら俺も行こっと」  やりかけていた宿題──小学生のワークだという衝撃的な事実が判明したが──をほっぽりだして俺と一緒に行こうとする戸田に、脅しをかける。 「神沢先生が宿題出来てない奴はぶっ潰すって言ってたぞ」 「問題なし。りっちゃんに負ける気しないし」  そういう問題じゃないだろ、と突っ込みそうになって止めた。  多分何を言っても付いてくるんだろう。ただ宿題から逃げたいだけに違いない。その理由に俺を使われるのは些か面倒が過ぎる。特に相手があの神沢先生なら。  上げかけていた自身の腰を椅子へと戻し、はあ、と重たい息を吐いた。 「行かないから宿題しろ」 「逃げられると思ったのにー」  読み通りの理由をつけて文句を言う戸田に、俺は鞄から出した自分のノートを投げつける。 「それ貸してやるから。早く返せよ」 「さっすが聖ちゃん!」  戸田が両手をあげて喜んだ。

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