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後ろから花咲が俺の背中をぽんぽん、と叩く。
「ん?」
「曲者 っぽいね」
目線は前の二人に向けたまま右耳を花咲の方へ寄せると、花咲は耳元へ小声でそう言った。
まあ確かに。あの白谷って奴は一癖ありそうだ。
「ま、花咲なら白谷も簡単に手懐けられるだろ」
「違うよ、黒矢君の方。何か、『臭う』」
そんな言葉が聞こえて思わず花咲の方を見ると、至って真面目な表情で俺を見ていた。目で同意を求めてくる花咲と見つめ合いながら暫し沈黙して、流石に耐え切れずに視線を外して俺は頭を振る。
「臭うってお前……。刑事ドラマの見過ぎだ」
「ちょっと、本当だって!」
花咲は唇を尖らせるが、代休中に刑事ドラマにハマったらしく、夜通し観まくるだけでは飽き足らず、俺を巻き込んで推理大会をしているからいまいち信用出来ない。
何でも花咲曰く、「刑事さんは第六感が凄いんだよ!」とのことだ。ドラマだからだろ、それ。
そんなやりとりをしている間に、俺の横を人影が通る。目線だけ向けて確認すると、黒矢の方だった。黒矢と白谷はそれぞれ用意された席に座るところのようだ。
黒矢が座ったのは戸田の後ろで花咲の横。俺も含めて厄介な奴に囲まれてご愁傷さま、と内心で黒矢に向かって呟いた。
「黒矢君、はじめまして。僕、花咲圭佑って言います」
「……花咲君、ですね……。よ、宜しくお願いします……」
完璧な外向きの笑顔を顔に浮かべた花咲が黒矢に挨拶をしている間に、念のため黒矢を観察しておく。
近くで見ると、垢抜けてはいないものの顔は比較的整っていると分かる。委員長がかけると賢そうに見えていた黒縁眼鏡も、黒矢だとなんだか頼りなく見えてしまうのは、分厚い前髪からちらりと見える八の字に垂れた眉のせいか。鬱蒼とした森のような髪はよく見ると焦げ茶色で、手入れされていないようであちこちに跳ねていた。
「ほら、藤原君も!」
まじまじと黒矢を見ていたら花咲にそう促されて、俺も軽く自己紹介をした。
「藤原聖。よろしく」
「……藤原、聖……?」
俺の名前を聞いた瞬間、黒矢の様子が急に変わった。驚いた、というよりも、怯えているように見える。
なんだ? 俺のことを知っているのか?
「藤原君のこと知ってるの?」
「えっ……あ、いや……、……似たような名前の人が知り合いにいたから……」
花咲が俺の疑問を代弁すると、黒矢は慌てて頭を振った。怯えたような表情はほんの一瞬で、宜しくお願いします、と丁寧に頭を下げる。
もう一人の転校生を探して廊下側の席についていた白谷を見つけると、ぶすっとした表情で此方を睨み付けるように見ていた。その白谷と目が合うと、不機嫌な様子でそっぽを向かれてしまった。
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