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「黒矢と白谷は知り合いか?」  白谷の態度に内心で頭を掻きながら視線を黒矢に戻して問うと、黒矢が少し困った表情をする。 「知り合いというか……同じ学校で、クラスメイトで……」 「あ、じゃあ友達?」  花咲の言葉を、黒矢は突然ぶんぶんと激しく首を振って否定した。 「……僕なんかが……白谷くんの友達なんて……、し、失礼です……」  今にも泣いてしまいそうに震えるか細い声。  花咲はそんな黒矢を眉を顰めて見つめながら、お気に入りの刑事の真似をして腕を組み、右手の人差し指で左腕をとんとん、と打ちながら暫し考え。 「もしかして──」  一つの可能性に行き着いたように目を輝かせ、口を開いたときだった。 「終わったあぁぁあああああ!!」  黒矢の前から、突如耳を塞ぎたくなるような大声が響き渡った。驚きすぎて目を見開いたまま戸田を凝視する黒矢の横で、花咲が今までに見たことのないような目でぎろ、と戸田を睨む。 「静利君、君ねえ、空気読まなきゃダメでしょ?」 「ありがとう聖ちゃん! これでりっちゃんに怒鳴られずに済む!」  戸田は満面の笑みで花咲の言葉を無視して──或いは聞こえていないのか──俺の手を両手で握り締め、縦に大きく何度も振った。俺は抵抗する気力もなくされるがまま。  あーそれは良かった良かった。でもな。 「先生こっち睨んでるぞ」 「え?」 「しーずーりー、お前はやっぱり一回殺らないと馬鹿が治らねえみたいだなおい」  先生はいつもの三倍増しの笑顔ウィズ青筋。そんな先生を確認して、戸田の顔は一瞬にして真っ青になる。  本当に毎回懲りないなコイツ。  焦ったように俺の手を振り離し、戸田が先生に向かって両手を合わせて頭の上にあげた。 「りっちゃんごめんて! でも宿題終わったしね? ね!?」  今しがた写し終えた数式だらけのノートを先生に見せつけ、戸田は必死に先生へアピールする。しかし、先生はそれを一瞥しただけで、眉一つ変えずに言葉を返した。 「ふーん、俺の教科は何だ?」 「え? 国語……あっ」 「数学やったって意味ねえよなあ?」  目に見えるくらいに青筋を浮かせて指の関節を恐ろしい音量で鳴らしながら、じりじりと先生が戸田に近付いてくる。どんだけ関節に空気溜め込んでるんだこの人は。 「おわっ」  襲い来る恐怖に何をとち狂ったのか、戸田は突然無理矢理俺を立たせ、その後ろに隠れた。 「ひ、聖ちゃん何で言ってくれなかったのさ!」 「いや、ボケてるのかと」 「嘘でしょ絶対!」  戸田なら日頃の行いからして、そういうボケをやりかねないと思うんだが。

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