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「これからは黒矢君も加わるんだよ」  手に愛用のカメラを持ちながら、花咲が黒矢ににこりと人のよさそうな笑顔を向けた。ね? と花咲に同意を求められ、さりげなく花咲が持っていたカメラをその手からするりと抜いて頷きながら、撮り立てほやほやであろう俺と戸田が写った写真を片っ端から消していく。あの短時間でよくこんなに撮ったなこいつ。 「あ! 藤原君何してるの! ちょっと止めて! 僕の萌えが!」  迫りくる花咲の手から逃げながらカメラを操作していたが、途中から面倒臭くなって、一括消去を選んですべての写真を削除した。 「……それに同期だし、敬語も止めてくれると嬉しい」  涙目で騒ぐ花咲にきれいさっぱりデータがなくなったカメラを返して、俺は先ほどの黒矢と同じようにぽつりと呟いた。  敬語を使われると壁を作られているようで、少し寂しくなる。そう感じて勝手に口から出た言葉だった。  ぽかんと口を小さく開けて俺を見上げる黒矢の目に映る自分を見て、我に返る。  俺は何を言っているんだ。  寂しい? 人殺しの俺が、寂しい?  何をおこがましいことを考えているんだ。普通の人間と同じような、そんなことを。  反吐が出る。 「ちょっと、藤原君聞いてるの?」 「……ん?」  怒りを滲ませながら怪訝な顔をした花咲に名前を呼ばれる。まだデータを消したことに怒っているようだ。いつもならすぐに元に戻るのだが、おそらく先ほどの写真だけでなく他のデータも全て消したことが原因だろう。 「どうしたの?」 「いや、何でもない」 「よくトリップするよね、藤原君」 「そうか?」  そんなにいつもトリップしているのか、俺は。  覚えがあまりない俺がんー、と記憶を辿りながら考えていると、黒矢がおずおずと話しかけてきた。 「あの……ごめんなさい。敬語は癖なので、外すのは難しいんですけど……でも、嬉しいです。……ありがとうございます」  黒矢は照れたように微笑んだ。頬から鼻にかけて薄く散らばるそばかすの周辺が、赤く色づいている。しかしそれも一瞬で、すぐにその顔からすっと笑顔が消え、先程までの不安そうな表情に戻ってしまった。 「あと……一つ聞きたくて……」 「ん?」 「……藤原くんって……東葉(とうよう)中でしたか?」 「ああ。黒矢もか?」 「い、いえ。僕は違います……」  そのまま黙り込んでしまった黒矢。そんな黒矢に、俺への説教を諦めた花咲が色々と話しかけ、何故黒矢が俺の出身中学を知っていたかは聞きそびれてしまった。  だが、その後、俺はその理由を思わぬ形で知ることになる。

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