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第二章 不良狩り

 先生に一日中愛の鞭で引っ叩かれ、夏休みの宿題を息も絶え絶えになりながら終わらせた戸田の元気が回復してきた頃。時期でいうと、二学期が始まって二週間程経った頃だろうか。  この頃には黒矢と俺たちは打ち解け始めていて、昼飯や学校から寮までの道のりを一緒に過ごすようになっていた。とはいっても、俺も黒矢も口数は少ないため、基本的に花咲や戸田の話に時折俺が突っ込み、それを見て黒矢が控えめに笑うくらい。それでも黒矢の口数は日を経るごとに徐々に増えているし、笑う際に声が出るようにもなってきた。  一方、同じ転入生の白谷は相変わらずの仏頂面で、周りから敬遠されている。戸田が何度か話しかけているのは見たものの、さすがの戸田でもまったく喋ろうとしない白谷とは会話が成り立たず、珍しく気まずそうな顔で目を泳がせとぼとぼと席に戻ってくるばかり。  俺自身のことを言えば、まだ悪夢は俺を解放してくれる様子はなく、学校が始まってからは屋上に行って赤髪と会うのが日課になりつつあった。花咲にこれ以上迷惑をかけないように部屋で睡眠はとらず、隙間時間を見つけて屋上で少ないながらも休息する。屋上を選んだのは赤髪が常にここにいるからだ。  赤髪は約束通り、発狂する俺を毎回ちゃんと止めてくれた。暴れようとする俺が鎮まるまでただ無言で抱きしめる。慰め等の言葉もなく、本当に抱きしめるだけだったが、その温かさが俺を正気に戻すのには一番効果的なようだ。  そういや無意識に赤髪って呼び掛けたら、もう黒髪だからその呼び方は止めてくれって言われたな。  そして、その話を聞いたのも、赤髪もとい橘健吾(たちばなけんご)と屋上で寝ようとしているときだった。 「不良狩り?」 「ああ。何でもAクラスやBクラスの奴らが転入生たちに潰されてるらしいぞ」  いつも通り束の間の休息を取りに来た俺の頭を膝に乗せながら橘が言う。  不良狩りとは言うが、ここの学校の生徒のほとんどが不良ではないだろうか。  それよりも。 「お前は大丈夫なのか?」  橘は三学年で唯一のSクラスである。俺もSクラスっちゃあSクラスなのだが、ほとんどの生徒はそんなことは知らない。不良狩り、なんて物騒な名前がついた行為でAクラスやBクラスの奴らが狙われているなら、Sクラスの橘が狙われないはずがないだろう。 「ああ、変な奴らが来たがウザかったから潰した」 「……軽々しく言うお前が心底怖いよ」  変な奴らって、どう考えても転入生軍団しかいないだろう。Aクラスの奴らでもやられているらしいのに、ウザかったからの理由で目に見えた怪我もなく潰せる橘に、改めてSクラスとしての強さを感じる。  俺よりも、と橘が言う。 「藤原、お前の方が危ないぞ」  その言葉に俺は眉を(ひそ)めて橘を見返す。  俺が? Eクラスなのにか? 「何でだよ。Eクラスの奴に手を出してくるか?」 「俺も聞かれたんだが、不良狩りに遭った奴らはみんな、『藤原聖を知らないか』って聞かれたらしい」 「は?」  何だよそれ。俺にそんながらの悪い高校生の知り合いはいないぞ。   「とにかく気をつけろ。藤原なら大丈夫だとは思うが、念のためにな」 「ん、サンキュ」  何故かざわつく胸の鼓動に気付かないふりをして、橘に髪を撫でられてそのまま眠りについた。

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