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 今更ながら橘に認知された副会長は、こちらも呆れたように橘を一瞥する。だが、視線だけは呆れにしては鋭く、まるで睨んでいるようだった。気のせいだろうか。 「……『全知全能』のことについて、……話して、やって」 「……はあ」  嫌そうに溜息を吐きながらも、副会長は俺たちに向き直って話し始める。 「『全知全能』は昔からある名の売れたチームで、元々は穏健派だったんだ。多分歴代のトップが争い嫌いだったんだろうな。でも最近トップが変わって──それからだ。手当たり次第他のチームに喧嘩を売ったり、暴れ回るようになったのは。そして、夏休みの間に大規模な暴動を起こして、このチームのメンバーのほぼ全員がうちに転入してきている。雉ヶ丘にチームが丸々入った感じだな」  そこまで一息で言うと、副会長は俺たちの理解が追い付くのを待つように一度間を置いた。そして、俺たちの表情から問題ないと判断したように小さく頷き、視線で会長を指す。 「こいつを見れば分かるとおり、『全知全能』の奴らはそれなりに強い。団体様御一行で来られたら、多分SクラスとAクラスのごく一部しか反撃出来ねえだろうな」  あーでも三年のAクラス最強がこの様だもんな、無理か、とわざとらしく副会長が付け足した。それにまた噛みつく会長が痛みを無視して言い返す。 「俺だってっ……不意を突かれてなかったら、あんな奴ら楽勝だった!」 「不意を突くのがあいつらのやり方だ。作戦負けしてんだよ、お前は」  (もっと)もなことを言われて、会長は暫くなにか反論しようと口をぱくぱくと動かしていたが、やがて唇を引き結んで副会長を睨み付けたあと、明後日の方向を向いた。やれやれ、と言いたげに肩を竦めた副会長が、橘と俺を見据える。 「今のままじゃ、いずれ雉ヶ丘は『全知全能』の奴らに乗っ取られるぞ」  学校が乗っ取られるなんて、普通に考えれば馬鹿げていると思う。ましてや雉ヶ丘学園は国が作った犯罪者の少年たちのための学校だ。いくら暴れ狂うチームが入ってきたとして、国の監視下でそれほど大変なことが起こるとも思えない。  しかし、副会長のそれは冗談には聞こえなかった。  今までの声色とは明らかに違う、焦りの混じった言葉。まるで、以前にもそういったことがあったような、確信をもった響き。 「……なら」  真剣な顔で黙って聞いていた橘が、口を開いた。 「徹底的に潰すしかないな」  その言葉に、反論するものは誰一人としていなかった。

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