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 もう少し成海と話がしたい、と告げた橘を病院に残し一足先に寮に戻ると、もう消灯時間間際になっているのにも関わらず、何故か鈴木と長谷川が寮の入口の壁に背中を預けていた。 「よう、藤原。どこ行ってたんだ?」  俺に気付いて顔を上げた鈴木が、右手を軽く上げながら話しかけてきた。 「少し見舞いにな。お前らこそこんな時間に何してるんだ」 「俺たちお呼び出し食らっちまってさ」  怠そうに肩を竦める鈴木と、呆れたような溜め息を吐く長谷川。  こんな時間にわざわざ呼び出しをする教師はいない。となれば、呼び出した相手は生徒になる訳だが、部屋に行くわけでもなく、寮の入口を指定するところからして、危険な様相を帯びている。 「呼び出し相手は誰だ?」 「転入生さん方」  嫌な予感が的中してしまった。何でまた、Dクラスの鈴木たちが目を付けられたんだろうか。  そんな俺の疑問が伝わったのか、鈴木が溜め息まじりに言う。 「俺たちと同じ中学だった奴らもいるみたいでさ、噂の転入生チームに」 「それで呼び出されたんだ」  鈴木の言葉を引き継いだ長谷川が、何がしたいんだアイツら、と苛ついたように呟いた。 「その転入生たちと仲良かったのか?」 「全く。関わりもほとんどなかったし、まず名前しか知らなかったし。今さら知り合い面されてもなぁ……」  心底鬱陶しそうに鈴木が言葉を吐き出す。鈴木や長谷川にまで『全知全能』の手が回ってきたということは、AからCクラスは皆狩り尽くされてしまったのだろうか。となれば、Eクラスまで魔の手が這い寄るのも時間の問題だ。 「気をつけろ。会長がやられたからな」 「うっそ、三年最強だろあの人」  未だ怠そうな表情の鈴木にそう告げれば、一瞬にして顔が強張り、目が見開かれる。そこまで深刻なことだとは思っていなかったのだろう。転入生たちに出会う前に注意喚起が出来て良かったと言うべきか。 「やべえことに巻き込まれた気がする……」  強張ったままの表情で、鈴木がぽつりと呟いた。眉間に深い皺を刻んで険しい表情を顔に乗せた長谷川が無言で頷く。 「とにかく、今日はもう──」  部屋に戻った方がいい、という言葉は俺の口から発せられることはなかった。何故なら、鈴木たちの後ろから、こちらに向かってくる集団が視界に入ってきたからだ。 「どうしたんだよ? 藤原?」 「あんたら藤原って知ってんの? 俺らが探してる奴と同じ苗字の奴じゃん」 「!?」 「な……!」  突然口を噤んだ俺を不思議に思ってか、首を傾げた鈴木が発した言葉に、集団の一人が反応した。  一昔前に流行った茶色いウルフヘアーを揺らして近付いてくるその男子生徒は、背後からの声に驚いて振り向く鈴木と長谷川を無視して、俺の目の前で足を止めた。  男子生徒は、俺の全身を上から下まで不躾な視線で嘗める。背筋を走る悪寒に震えそうになる体を制御しながら、冷静を装ったまま男子生とへと問い掛けた。 「……何か用か」 「ん? 俺らが用あんのは藤原聖って奴なんだけど。お前知らねえ?」  その言葉に、俺が反応するより早く鈴木が息を呑んだ。それに気付いた男子生徒は、くっ、と愉しげに口角を上げる。 「お、知ってんだ、あんた? てか待ち合わせしてたの二人だったんじゃねえの?」 「そいつは通りがかっただけだ」 「ふーん。えっとどっちが鈴木陽太? 長谷川漣? まあどっちでもいいか。藤原聖ってどんな奴?」  俺から視線を外し、男子生徒は長谷川の言葉に適当な返事を返す。目の前にいる俺が、自分が探してる張本人だとは気付いていないらしい。  ということは、外見は知られていないのだろうか。

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