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 男子生徒の質問に鈴木と長谷川は揃えて口を(つぐ)んだ。長谷川が、男子生徒の目を盗みながら、俺にこの場から去れと目で訴えかけてくる。 「初対面じゃ話しにくいか。じゃあオトモダチにバトンタッチするわ。おーい、こいつらと同中誰だっけ?」 「俺らっす」  男子生徒が集団へ呼び掛けると、二十人ほど居た中から、五人が前に出て来る。鈴木と長谷川は、ゆっくりと振り返ってそいつらを視界に留めた。 「久しぶりだなァ。鈴木、長谷川ァ」 「テメェらには随分世話になったな?」 「テメェらにやられたとこ、まだ傷残ってんだよ。これ見るたんびにムカついてしゃーねーんだよなあ!」  出て来た奴らは口々に鈴木と長谷川に下卑た笑いを伴って話し掛ける。二人は無表情でそいつらをじっと見ていたが、やがて鈴木が口を開いた。 「……なあ長谷川」 「何だ」 「こいつら誰だっけ?」 「知らん」 「だよな。帰ろうぜ」  鈴木の突き放すような言葉に、鈴木と長谷川の同中だったらしい奴らが狐に摘ままれたような顔で固まる。長谷川は既にそいつらへの興味を失ったのか、踵を返してウルフヘアーの男子生徒の横から俺の腕を掴んだ。 「行くぞ」  ぐい、と掴まれた腕が引っ張られる。しかし、その直後に反対の腕を先程の男子生徒に掴まれて引き戻され、長谷川の手が俺の腕から離れてしまった。 「まだ話終わってねえんだよ。俺らから逃げられるとか思ってるわけ?」 「たりィから帰るんだよ」  鈴木が男子生徒へとずい、と顔を寄せて眉を吊り上げながら不機嫌さを露わにして告げる。しかし、男子生徒は動じる様子もなく、うっすらと唇で弧を描く。 「俺らの噂知らねえの?」 「んなもん興味ねえよ。うぜえから」  焦りもあるのか、鈴木の言葉が徐々に荒れ始める。それに涼しい顔をしながらも、男子生徒は俺の腕を掴んでいる手に力を入れた。 「っつ……!」  俺が自分の腕を締め付ける痛みに顔を歪めたその時。 「やっと見つけたぜ、藤原聖クン?」  耳に突き刺さる、聞き覚えのある声。その音を脳が捉えた瞬間、呼吸することを忘れた。  声がした方へ無意識に視線が移る。転入生らしき集団の真ん中にできた道の奥に見えたのは、短めにまとめられたアッシュグレーの緩く波打つ髪を持った男。顔立ちこそ優し気に見えるものの、纏わりつく雰囲気には獰猛な内面が滲み出ている。少し長めに流された前髪の奥にある濃褐色の瞳は、以前と同じように、その視界に捉えているであろう俺に燃えるような視線を送ってくる。 「お前……」  そいつは思わずそう呟いた俺を見据えたまま、くくっと笑い声を零した。 「いつ見てもマジキレーだな。そのキレーな顔──」  一瞬の間。  俺に向けられたまま見開かれた目に、ぞわり、と背筋に悪寒と恐怖が同時に走る。牙に見間違う程鋭い犬歯を剥き出しにして、そいつは見るものを脅えさせる歪んだ笑みを浮かべた。 「ぐちゃぐちゃにさせろよ」  この雉ヶ丘では卑猥な言葉にも取られるような言葉。だが、あいつのことを覚えていた俺は、瞬時に違うと確信する。  本当にぐちゃぐちゃにしたいのだ、こいつは。  俺が今まで殺した奴にやってきたように。  顔面を抉り、掻き回し、潰したいのだ。  このイカれた趣味の持ち主は。 「お前だったのか……!」  中学の頃、何度も俺を殺し損ねた司馬智斗瀬(しばちとせ)は。

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