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 司馬の言葉に、俺の腕を掴んでいる男子生徒がぴくり、と反応する。 「何? こいつが藤原聖?」 「ああ。でも中学の頃よりもっとキレーになってやがる」  ぺろ、と小さく出した舌で唇をなぞり、不気味な笑みを貼り付けたまま、司馬が此方(こちら)へと歩を進め始めた。 「くそ、離せ!」 「嫌だね。せっかく捕まえた獲物なのに」 「おい、傷付けんなよ。そいつをぐちゃぐちゃにしていいのは俺だけだ」 「ふざけんな……っ!」  鬱血痕が残るほど強い力で俺の自由を奪う男子生徒の手を必死に振り解こうとしながら、俺の行動を楽しむように酷くゆっくりと近付いてくる司馬を睨みつける。しかし、司馬は更に笑みを濃くしただけで、確実に距離を詰めてきた。 「抵抗したって無駄無駄。てか弱っちいな、案外。智斗瀬が殺せなかったっつってたから、もっと強ェのかと思ってたし」  がっかり、と男子生徒が見るからに嘲るような表情で肩を落とす。そんな男子生徒へと視線を寄越した司馬が、ほんの少しだけ眉を顰めた。 「なめてると終いに殺されっぞ」 「へー、智斗瀬がそう言うっつーことはそこそこ強いんだ、お前」  歯を食いしばる俺を見下しながら、男子生徒が不敵に笑う。 「自己紹介でもしてやろうか。俺は樋山修司(ひやましゅうじ)。ま、冥土の土産にでも持っていってくれな?」 「それは無理だな」  樋山の言葉に返事をしたのは、いつの間にか俺の背後に回り、俺の肩に腕を回した長谷川だった。 「んだテメェ、割り込んでくんじゃねえよ。おい、同中の奴ら……」  一気に不機嫌になった樋山が振り返りながら言った言葉が、尻窄みになる。その反応に対して、肩越しに長谷川がふっと笑ったのが分かった。 「あいつらならピーピー喚いて五月蝿(うるさ)かったから片付けておいたが?」 「もうあいつらまじゴミ! 俺のシャツ掴みやがって……シワ寄ったじゃん」  司馬の後ろから、文句を言いながら鈴木が此方へ向かってくる。その向こう側にちらりと見える、呻きながら倒れている転入生たち。俺と樋山の視線が司馬に集中している間に、二人で五人を沈めたらしい。二人とも怪我をしている様子はない。  樋山は開いたままの口元と眉を同時にひくひくとさせながら、ゆっくりと顔を戻した。 「……テメェらなかなかやんじゃん。でもそれで勝ったつもりかよ?」 「勝った負けたはどーでもいいから藤原離してくんない? 腹減ったし飯食いてえの」  俺の元に辿り着いて、俺の頭に手を置いて怠そうに鈴木が言う。その言葉が逆鱗に触れたのか、樋山が目を見開いて歯を食い縛り、空いている方の手でぐっと拳を握ったとき。 「やーめとけ。雑魚に何本気になってんだ」  司馬がその拳を自分の手で覆った。 「智斗瀬……っ!」 「雑魚にキレるとかお前、チームの価値下げてえの?」  薄ら笑いを浮かべて問う司馬に、樋山は真っ赤になっていた顔を一瞬で青くする。恐らく司馬の笑っていない目の奥に淀む闇に気付いたのだろう。大人しくなった樋山を満足そうに見ながら、司馬は俺の腕から樋山の手を外した。  そして、司馬はくっきりと残った手の痕に指を這わせ、痕に沿うように俺の腕を握る。 「ゲーム、しねえか?」  目の前の男は、突然そんなことを言い出した。

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