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「……何が目的だ」
「そう警戒すんなって。俺にもお前にもメリットがあんだから」
くくっ、と愉しげな笑い声を溢しながら、司馬は俺の腕を掴む力を若干強めた。
「ゲームの内容は、お互いのチームのトップを殺した方が勝ち。殺すのは下っ端でも誰でも良い。こっちは俺。そっちは藤原、お前な」
「俺たちにチームなんてない。第一、それのどこにメリットがあるんだ」
「チームねえのかー。まあ適当に人集めな」
「おい、聞いてるのか?」
チーム云々よりもまずメリットとは何だ。殺し合いなんかをして、俺が何を得られるというのか。他人を危険に晒し、命を踏みにじるような真似をして、それに見合う対価など存在するはずがない。
「聞いてる聞いてる。メリットだろ? 俺はお前をぐちゃぐちゃに出来る。お前は、もう俺から逃げずに済む、だろ?」
「メリットでも何でもない。俺はお前から逃げてるつもりはないし、これからも逃げるつもりはない」
「まーまー、そうカリカリすんなよ。まだあるぜ? メリット」
腕を掴む手に力が込められてぐい、と司馬の方へ引っ張られた。長谷川と鈴木の腕が離れ、司馬の胸元へと倒れ込む俺の耳元で、低い声が囁く。
「殺人衝動、まだあんだろ?」
「ッ!」
反射的に司馬の腕を振り払い、後退った。
何もかもを見透かしたような意味深な笑みで俺を見るその目を、今すぐ潰してしまいたい。
「何だよ、いい案だろ?」
「ふざけるな!」
思わず出た怒鳴り声が、寮の入口の空間に響く。司馬は少し驚いたようだったが、すぐにニヤリと笑った。
「中学んときと全く違ぇな。そこのオトモダチのおかげか?」
「うるさい!」
「くくっ、面白くなって来やがった。ま、そういうことだ。精々頑張って逃げろよ」
「話を聞け!」
「ああ、あと、もう三学年ともCクラス以上はほとんど俺たちのチームに入ってっから。Dクラス以下はお前にやるよ。邪魔だし」
俺の言葉を悉 く無視して、司馬は一方的に告げる。そして足を踏み出し、憤る俺の横を通り抜けた。
「ゲームスタート、だ」
その言葉を、俺の耳に残して。
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