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第三章 王様殺し・ゲームスタート

「──そうか」  ソファーの背凭れに背を預け、橘が一言、そう呟いた。  俺はあの後しばらく放心状態で、まともに物を考えることも、自分の意思で体を動かすことも出来なかった。そこへ、病院から戻ってきた橘と副会長と水野が現れ、樋山と司馬に掴まれた際に出来た腕の痣を見られて問い出されたのだ。  寮の入口では司馬の仲間が戻ってくる危険性もあったため、ひとまず俺の部屋に移動し、長谷川が大体の経緯を三人に説明して、橘が発したのが冒頭の言葉である。 「僕、藤原君の為なら何でもやるよ!」 「お、俺も!」  フローリングに座るパジャマ姿の花咲の言葉に、同じくフローリングの上で三角座りをしていた水野が手を挙げながら乗った。  申し出自体は有り難いし、そう思ってもらえるような関係性が築けたことに嬉しさは感じるが、司馬の残酷さを知っている身としては出来るだけみんなを巻き込みたくはない。  そんな俺の心を読んだのか、ソファーの傍で立っていた長谷川が口を開いた。 「その心意気は買うが、今回は藤原の命がかかってるんだ。俺にはあいつの言葉が冗談には聞こえなかった。あいつは本気で藤原を殺す気だ。お前らも場合によっては命の危険がある。これは只の喧嘩じゃない」  長谷川の言葉に水野と花咲は眉尻を下げて押し黙った。死ぬかもしれないと言われて、それでも協力するなんて咄嗟に返事できる訳もない。予想通りの反応だ。  暫く無言になったその場の沈黙を破ったのは、橘の横に座っていた副会長だった。 「俺はやるぞ。こいつの為じゃない。俺らの学園が潰されちゃかなわんからな」  橘の横に立っていた俺を顎で指しながら副会長が告げる。長谷川の足元に座り込んでいた鈴木が副会長の言葉にむっと不服そうな顔をしたが、俺にとってはむしろ安心する言葉だった。  学園を守ることが目的なら、いざとなれば俺を捨てられる。それでいい。邪魔なものは、切り捨てた方が賢明だ。 「俺もだ。藤原を絶対に護る」  橘が放った言葉に、俺は無意識に強張っていた肩から力を抜いた。転入生を返り討ちにしたらしい橘が味方であれば、司馬であろうと迂闊に手出しはできないはずだ。それだけでもみんなに危険が及ぶ確率はぐっと下がる。  橘の強い眼差しが俺を捉える。内心安堵していたのが見透かされてしまいそうで、その視線から逃げるように皆を見渡した。 「……みんなを巻き込んで本当にすまない。出来るだけ自分の安全を優先してくれ。俺は……大丈夫だから」 「大丈夫そうな顔じゃねーけど」  膝に肘をついてむすっとした顔のまま鈴木が不機嫌そうな声を出した。

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