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 鈴木が何故そんな表情で俺に言葉を投げ掛けたのかが分からず、言葉に詰まる。俺の言葉の何が気に障ったのだろうか。  俺が返事をしないのが図星を突かれたからだと思ったのか、鈴木ははあ、と大きな溜め息を吐いた。 「藤原が何を抱えてるのかとか、何に巻き込まれてんのかとか、俺は全然わかんねーけど。ちょっとくらい俺らを頼ってくれてもいいんじゃねーの」  俯いてフローリングの筋を指でなぞりながら呟かれた言葉。  俺が、鈴木たちに頼らないのが不満、だということか。  予想もしていなかった理由に目を丸くすれば、長谷川がふっと微笑んで、鈴木のくるりとした髪の毛に指を通して犬を撫でるように掻き回す。 「っうわ、ちょ、漣! ぐしゃぐしゃにすんなよ!」 「うちのワンちゃんは寂しがりなんだよ」 「誰が犬だ! やめろって!」  顔を赤くしてバタバタと暴れだす鈴木の頭に手を置いたまま、長谷川は俺に穏やかな表情で問い掛けてきた。 「藤原にとって、俺たちは何だ?」 「──っ」  答えに詰まる。  友達、という言葉を使っていいのか分からない。俺が内心で友達だと思っていたとしても、向こうにとっては違うかもしれない。それに、真っ黒に汚れた自分が、そんな高尚な関係だと思っていると伝えるのは違う気がした。  じゃあ、俺にとっての皆は、何なんだろう。  脳内の辞書を片っ端からあたって、俺たちの関係性に一番近いものを探していく。そして見つけた、答え。 「──仲間、だ」  俺の返答に、鈴木がばっと顔をあげた。驚きと、嬉しさが滲んだ表情。  そう、か。俺は存外、愛されていたのか。 「合格だな。良かったな、陽太」 「な、なんだよ! 分かったような顔しやがって!」  鈴木は頬を紅くして、横にある長谷川の足をぼこすか攻撃し始めた。端から見れば照れ隠しの微笑ましい光景なのだが、余程痛かったのか長谷川の眉がきゅ、と寄せられる。鈴木の頭に置いていた手が、がし、と頭蓋をわし掴んだ。 「いててててて! 痛い、痛いって!」 「人を殴っておいて謝罪もなしか?」 「ごめん! ごめんって! まじで離して! いてえって!」  涙目で悲鳴を上げながら謝る鈴木に、鬼の形相で腕に筋を立てつつぎりぎりと力を込めていく長谷川。いつもと変わらない光景に、ふ、と自分の口元が緩むのが分かった。  俺には勿体無いほど、良い仲間に恵まれている。 「もう、喧嘩してる場合じゃないでしょ!」  苦笑しつつ花咲が諌めると、長谷川はチッと盛大な舌打ちをして手を離した。直後に拳骨を一発添えて。  頭を押さえて悶絶する鈴木に憐れみの視線が集まる。その視線を他所に、長谷川が再び話し始めた。 「圭佑と水野は、どうする」 「……やるよ」  花咲が芯のある声で宣言する。そして唇を噛み締め、傍にいた俺の足元に移動して足に抱き付いてきた。 「お、おい、花咲──」 「藤原君がいなくなるなんて、もう絶対嫌だもん。あんな思い、もうしたくない」  今にも泣きそうな顔で呟くと、花咲の顔が俺のスラックスに押し付けられる。  あんな思いとは恐らく、窓から身を投げたときのことだろう。自分の弱さが原因で嫌な思いをさせてしまったことに、申し訳無さが募る。 「……ごめん」  花咲を足から剥がし、しゃがみこんで目線を合わせて花咲の柔らかな髪を撫でる。下睫毛に薄く張っている涙を慎重に指で掬いとれば、花咲は唇を尖らせてばっと腕を広げた。  

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