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 その後も何かと俺と橘の動向を気にする花咲に軽く拳骨を落としつつ準備を済ませ、いつもより早く部屋を出る。少し早い時間だからか、学校へ向かう生徒の数はいつもに比べて大分少ない。  普段よりも静かな空気の中、俺たちは大した会話もなく三人で連れ立って学校へと歩を進める。この学園唯一のSクラスである橘を連れていることで、少なからず周りから視線を集めている気がするが、敵意を持った視線はなく、襲い掛かってくる者もいない。橘の存在が大きすぎて、横にいる俺や花咲が目立たなくなっているような気もする。  内心で橘の存在を有り難く思いながら他愛もない会話を花咲としつつ、粛々と目的地へと足を動かす俺たちの後方から、「あれ?」と聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向けば、戸田が不思議そうな顔をしながら此方へ駆けてくるのが視界に入った。  花咲の横に並んだ戸田が「おはよう」と挨拶をしたので、花咲と俺で同じように返すと、戸田は俺の隣にいた橘を鋭い視線で刺した。 「何でSクラスと登校してんの?」  戸田は言葉にある棘を隠そうともせず、詰問じみた問い方をした。その理由には心当たりが存分にある。  戸田からすれば、橘は俺を(おびや)かす輩であり、ボディーブロー一発で沈められた因縁の相手だ。転入初日の屋上の件から始まり、俺が窓から落ちた時の出来事なども相俟(あいま)って、戸田の橘への評価はどん底に落ちている。  それに加えて最近は、敵にも等しい橘がいる屋上で俺が寝ていることも気に入らないらしい。俺からすれば、戸田たちに負担を掛けないようにするために仕方なく行っているだけなのだが。 「あー……ボディーガードみたいなもんだ」 「ボディーガード? どういうこと?」  変に誤魔化すと後々面倒臭くなりそうだったのでぼかしながらそう返答すると、戸田は眉間の皺を更に深くして首を傾げた。  どうせ後で話そうとしていたことだ。今話しても問題ないだろう。  戸田に昨晩の事をかいつまんで説明する。それを聞いていた戸田の表情が、段々と固くなっていくのが目についた。 「聖ちゃんは俺が絶対守る」  話が終わった瞬間に戸田がそう告げた。覚悟を持った燃えるような瞳が俺を見る。本当に、いい仲間に恵まれたものだと思う。  目を細めてありがとな、と返せば、戸田は「本気だからね!」と何故か若干怒った様子で言った。覚悟を決めた言葉に対する軽い返事に、冗談と思われたと受け取ったらしい。  分かってる、と俺も真剣な表情で頷きながら言うと、戸田は溜飲が下がったようで、いつもの笑顔を浮かべてうん! と元気よく返事をした。  そうこうしているうちに、Eクラスの教室の前まで辿り着き、橘に礼を言って別れる。そのまま屋上へ続く階段の方へ向かう橘とすれ違ったEクラスの生徒たちが、ぎょっとしたような表情で橘を見ていたのが少し可笑しくて、ふ、と誰にも気付かれないように笑みを溢した。

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