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一、二時間目は何事もなく過ぎた。変わったことと言えば、何故か皆揃って大人しい生徒たちが気になってか、先生たちが終始そわそわと落ち着かない様子で授業をしていたことくらいだろう。
そして、三時間目の古典──神沢先生の授業中に、そいつらは遂にやって来た。
「藤原聖って奴ぁどこだ!」
突然バン! と乱暴にドアが開かれる音とその言葉が教室内に響き、皆の視線がドアの方へと一斉に注がれる。名前を呼ばれた俺も、例に漏れずそちらの方へ目をやると、不快感を覚える笑みを一様に浮かべながら教室内を見渡す不良が五人ほど見えた。
転入生なのか、司馬に取り込まれた奴らなのかは分からないが、こんな作戦もなにもない単純な方法で仕掛けてくる辺り、司馬の眼中にも入っていない輩なのだと容易に想像がつく。ようは、雑魚だ。
しかし、そもそも不良と呼べる生徒が少ないこのクラスの皆にとっては、不良というだけで恐怖の対象であることは間違いない。それに加えて、朝の委員長の言葉を思い出してか、名前を呼ばれていた俺に視線を移した多数の目から動揺が読み取れた。
先生もそれを感じ取ったのか、ぞろぞろと教室内に入ってこようとする不良を威嚇するように睨み付ける。
「今授業中だぞ。早く教室戻れ」
「誰も聞いてねえだろ、授業なんて。それより早く藤原聖って奴を出せよ」
なめかかっている不良共の言葉が、爆弾の導火線に火をつけた。遠くからでも分かる、びき、と先生の額に浮き出た青筋。それでも教師としての矜持 か、怒りを抑えて低く唸る。
「テメェらなあ……大人なめてんじゃねえぞ……?」
不良共は自分たちが抱えた爆弾に気付かなかったらしい。その導火線が、酷く短いことも。
「は? センコー如きが何言っちゃってんの? 何でも良いから早く……あ!?」
馬鹿にしたような不良の言葉が不自然に途切れる。それもそのはず、不良の目線の先には教卓を持ち上げた先生の姿があった。それも、片手で。
先程までの勢いが嘘のように、開いた口を閉じることすらままならず、青ざめる不良たち。
「な、なな、何だよこいつ……っ!?」
「ちょ、こいつあの神沢理一じゃねえの!?」
「ヤバいって、早く逃げ──」
言葉はまたしても続かなかった。入口の方へ一直線に放たれた教卓が、不良たちに鈍い打撃音を上げながら衝突する。五人まとめて廊下へ叩き出す程の威力に、無意識に姿勢が伸びていた。
「センコー如きがなんだって? あとな、年上を呼び捨てにすんじゃねえよ!」
犬歯を剥き出しにしながら先生が吐き捨てる。キレるところ、そこなのか。
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らして廊下へ向かった先生は、教卓を右手に持って戻ってきた。バン! と先程よりも大音量で閉まったドアから伝わった衝撃が、びりびりと教室内に、そして俺達にまで伝染する。
少し足の部分が変形した教卓が元の位置に置かれ、先生は何事もなかったかのように授業を再開し出した。いつもはちらほら寝ている生徒もいたりするのだが、この時ばかりは全員背中に棒を入れられたように直立した姿勢で授業を受けていた。もちろん、俺も。
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