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 橘の部屋にお邪魔して、荷物を下ろし一息つく。幸い、ここに辿り着くまで司馬たちの仲間に会うことはなかった。始まったばかりで、こちらの出方を見ているからだろうか。  それにしても、雉学祭の代休中、睡眠を取るために何度か来ていた部屋だが、何度見ても一般生徒の部屋との違いに感嘆する。  初めて連れてこられた際は逃げるのに必死で気付かなかったが、ここに置いてある家具は、俺たちの部屋の物とはレベルが違うのがブランドに疎い俺でも何となく分かった。俺たちの部屋でもそこそこ金がかかってはいるだろうが、ここはその比ではない。   「やっぱりここ、凄いよな……」 「そうか?」  これくらい普通だろ、とでも言いたげな橘。そりゃこんな所にずっといたら、感覚が麻痺するだろうな。   「飯作るから、適当に過ごしてろ」  そう言いながらキッチンの方へ向かう橘の背中に、純粋な疑問を投げ掛けた。 「お前料理出来るのか?」 「ずっと一人暮らしだったからな。何かリクエストは?」 「美味いやつ」  意外だなと思いつつ正直に答えたら、くるりと方向転換して戻ってきた橘に頭をがしっと掴まれた。  絶妙な力加減のお陰か痛みはないが、頭が固定されて動くことが出来ない。仕方なく目だけを上に動かして橘の顔を見る。怒りの感情は見えないが、少し不機嫌そうな表情の橘と目が合った。 「何だ」 「俺が作るものに不味いものはない」 「自意識過剰……」 「五月蝿(うるさ)い」  そう言うが早いか、橘は掴んだ手を俺の後頭部に移動させ、ぐい、と自分の方へ引き寄せた。 「んッ……!」  俺の唇が橘のそれと重なり合う。  咄嗟に腕を前に突きだそうとしたが、両手をまとめてもう片方の橘の手に拘束された。抗議しようと開きかけた口をこじ開けられて、舌がぬるりと入り込んでくる。 「っふ、んぅ……っ」  ぴちゃぴちゃ、と耳を塞ぎたくなるような水音が辺りに響く。無遠慮に俺のものに絡み付いてくる舌が出ていったかと思えば、角度を変えてさらに深く押し込まれた。俺の舌の上を伝いながら辿り着いた上顎をつつ、と橘の舌先がなぞり、それにあわせて俺の腰が震えながら揺れる。  他人の熱を容赦なく与えられるこの行為が、酷く気持ちいい。そして、焦らされた浅ましい体は、この先にある更なる快楽を欲して、下半身に疼きを生み出した。 「ゃ……ンッ……っ……」    俺の口内をあらかた貪った橘の唇が離れると、銀の細い糸が俺と橘の唇を繋いだ。熱に浮かされた頭はすぐには動かず、荒い息を何度か吐き出した後、やっと動いた思考が橘へとこの行為の意味を問い(ただ)した。 「……っはぁ……ッ何の真似だ」 「お仕置きだ」 「何のだよ!」 「俺に失礼なこと言っただろ」  何という俺様発言。  手は出さないって約束だろ、と唸れば、橘は飄々と「手は出してないぞ。、な」と返してきやがった。  流石に言い返す気もなくなって、橘に掴まれたままの両手でその胸を押せば、あっさりと全ての拘束が解ける。 「で、何がいいんだ?」  にや、と悪戯に口角を上げた橘が聞いてくる。 「好きにしてくれ……」  また余計なことを言って襲われたらかなわない。  俺の返答に、橘は嬉しそうに「分かった」と言って、今度こそキッチンへ向かった。

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