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 橘からの過剰なスキンシップに慣れてきてしまっている自分に呆れながら、とりあえず飯が出来るまで適当に過ごそうと、テーブルに置かれていたリモコンを手に取る。以前寝かされていた天鵞絨(ビロード)生地のソファーには座る気になれず、ソファーの足元の毛足の長いベージュの絨毯に腰を下ろして、一般生徒用より一回りは大きなテレビの電源を点けた。  キッチンの方から聞こえるトントンという小気味良い音をBGMに、大画面に映し出される夕方のニュース番組をぼーっと眺める。繁華街で起きた暴行事件や、観光バスと乗用車の交通事故、そして大物女優のスキャンダル。そのどれもが別世界のものに感じてしまうのは、この学園での生活に染まってきたからだろうか。  興味の湧かないニュースが子守唄になり、寝不足もあいまってうつらうつらと船を漕ぎ始めた頃。 「出来たぞ。おい、起きろ」 「ん……さんきゅ……」  肩を叩かれて顔を上げれば、目の前には湯気を立てる器が置かれていた。白くて細長い楕円状の器から、腹の虫を鳴らすいいスパイスの香りが漂ってくる。 「カレーか」 「なんか好きそうだったからな。具は余り物だが」 「子供かよ」  はは、と笑って、器の前に置かれているスプーンを手に取り、一口大サイズの野菜がごろごろと入っているカレーをすくう。口に入れると、刺激はあるがほんのり甘みもあるいい具合の辛さのカレーの味が、ふわりと口の中に広がった。これは──。 「美味いな……」 「当たり前だ、言っただろ」  思わず漏れた賛辞の言葉を聞いて、得意気に胸を張る橘。しかし悔しいかな、それを止めさせることは出来ない。それほどに、橘の作ったカレーは美味かった。  カレーだけでは何とも言えないが、あの口振りとこの実績から見るに、料理の腕は花咲といい勝負なんじゃないだろうか。  一口目以降言葉を発さず、次々に口にスプーンを運んでいく俺の横に座り、橘も自分の分のカレーを食べ始めた。ちら、と覗き見すると、そのカレーが俺のものより大分赤みがかっていることに気付く。 「それ、俺のと同じか?」 「違う。そっちは味見するだけで無理だった」 「なっ、そんなの食わせたのか!?」 「甘いのは嫌いなんだ」  橘は明らかに色がおかしいカレーを、ばくばくと食べている。  このカレーが甘い? じゃあ橘が食べているのはどんなもんなんだろう。  ──少し食べてみたい。  そんな好奇心が芽生えて、隙を見て素早く横から橘のカレーをすくった。 「あ、馬鹿、止めとけ!」  必死に止める橘に疑問を抱きつつ、ぱくっと一口。 「¥$◯%#&*@△!?」  口の中で突如爆発が起こったかのような衝撃だった。  言葉に表せないほどの辛さ。いや、もはやこれは痛みだ。舌が感じられる味は、この料理には存在しない。もはや劇物といっても過言ではない。

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