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 瞼の裏を焼くような明るさで目が覚めた。 「ん……」  一度開いた目は、眩しさに負けて半分ほど閉じてしまった。そのまま暫しぼーっとして、徐々に光に慣れてきた目を右に動かす。  視界に映った橘は、昨晩と同じような寝顔を見せていた。朝陽に照らされた部屋の中はこれだけ明るいと言うのに、そんなことは意に介さずまだ夢の中らしい。俺の腰に回されている腕が動き出さないことを確認して、体をゆっくり起こした。今度はまともな夢を見ているといいが。  そういや、昨日下着にたくさん出したはずなのに、下半身が気持ち悪くない。いつの間にか掛けられていた掛け布団を軽く押し上げれば、先走りなどが染みていたスウェットは取り除かれ、昨日穿いていたものと違う下着になっていた。橘が綺麗にしてくれたんだろう。  橘の腕を優しく体から外し、ベッドから降りようとしたところで、ふと気付く。 「……朝?」  そう、朝だ。  弾かれたように壁に掛けられた丸い時計を見る。短針はちょうど六の文字を差していた。  いてもたってもいられなくなり、一刻も早く期待を確信に変えたくて物凄い勢いで橘を揺さぶった。 「橘、おい、橘!」 「ん……何だよ……」 「お前、あの後からずっと寝てたか!?」 「……ああ、藤原をキレイにしてパンツ新しいのはかせてトイレで抜いて寝た……」  聞いてもいない余計な情報が飛んできたが、それよりも重要なことがある。そう、今の俺にとっては何よりも大事なことだ。 「起きてないってことだな!? 俺、夢を見なかったんだ!」 「夢……? ……ああ! 本当か!?」  橘は眠そうに擦っていた目を見開いて飛び起き、俺の肩を掴んで驚きに満ちた声を出した。 「お前が爆睡してたのが証拠だろ?」 「そうか! そうだ、な……」  直前までの勢いはどこへ、途端に言葉を詰まらせた橘の眉が寂しそうに下がって顔が伏せられる。  何だよ、嬉しくないのか。もう発狂する俺に付き合わされなくて済むかもしれないのに。  下を向いたまま、橘は捨てられた子犬のようなか細い声で俺に呼び掛けた。 「なあ……」 「ん?」 「もう、俺はお前の側にいられなくなるのか?」  そう問いかけられた言葉の意味を、俺は一瞬理解できなかった。しかし、雉学祭のときに俺が橘に告げた言葉を思い出し、腑に落ちた。 『仲良くする気なんかさらさらない』  あの時は、この言葉が本心だった。俺を好き勝手に犯して辱しめたこの男には、出来る限り関わりたくなかった。  では、今は?  俺は、こいつを、橘を、どう思っているのか。 「俺は、お前と離れたくない」 「……」 「発狂してくれ」 「いや、無理だろ」  橘の無茶振りに思わず冷ややかな声で突っ込んだ。  誰だって、精神を蝕んでいくような悪夢なんか見たくない。それは、恐らく橘も分かっている。  それでもそう願うのは、現時点で俺と橘を繋ぐのものが悪夢しか存在しないからだろう。 「なあ、お願いだ」 「無理だ、ってどこ触ってっ」  懇願する橘の手が剥き出しの俺の太ももの上を滑る。言い知れぬ刺激がぞくりと背筋を駆け上がり、慌てて橘の手を掴んでばっと胸の辺りまで上げた。  また昨晩のように流されては困る。 「止めろ」 「……捨てないでくれ」 「捨て……って、飼った覚えないからな」  男が憧れるような立派な体が小さくなっている。俯く頭の上にしょんぼりと垂れた犬耳が見えた気がして、自然に笑みが零れた。

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