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 ちらり、と垂れ下がる目で俺の様子を窺う橘の顔を両手で挟み、俺と目線が合うように顔を上げさせる。いつもは鋭利な視線を向けてくるその目も、今は不安の(もや)がゆらゆらと揺れていた。 「橘、俺はお前をまだ手離す気はない。少なくとも、このイカれたゲームが終わるまではお前にいてもらわないと困る」 「……じゃあ、その後はどうなるんだ?」 「それはお前次第だ。……お前を離したくないと俺に思わせてみろ。但し昨日みたいに手は出すなよ、分かってるな?」  俺の手の中で希望を持って明るくなった橘の表情が、瞬時に何かを考え込むようなものに変化する。少しの間唇を引き結んで考えていた橘が、小さく口を動かした。 「……キスくらいは許してほしい」  こいつ、やっぱりそういうことしか考えてないな。俺のことが好きと言ったのも、体目的なんじゃないだろうな。  はあー、と長めに肺の中の空気を出しきって、少し睨み付けるように橘へ視線を送る。 「キスも駄目だ」 「……キスがしたい。少しだけでいいから、したい」  狙っているのか、無意識なのか、上目遣いで俺を見てくる橘。いつも見下ろされているその目に見上げられている様に動揺してしまう。断固拒否したいのに、その言葉を口にさせてくれない不思議な魔力に屈服した。 「…………あーもう分かった! 一日一回までなら許してやる、一回だけだからな!」  俺の返答に目に見えて橘が色めき立った。  くそ、なんでこいつ相手だと甘くなってしまうんだ。他人にそうさせる能力でもあるのかこいつは。  俺から言質を取った橘は、大層ご機嫌な様子で俺の体を腕の中へと収めた。 「藤原、好きだ。どうしようもなく好きだ」 「わ、分かったから……」 「絶対にお前の傍から離れないからな、覚悟しろ」  先程までとはうってかわって、自信満々な声が俺の耳に流し込まれる。  正直なところ、ここまで執着される理由が思い当たらない。それでも、橘からの好意は確かに心地好いもので、失くしたくないと心の底で感じているのを不服ながら認めざるを得ない。死んでも口には出さないが。  数分間たっぷり俺の体を抱き締めて、やっと俺を解放した橘は、いつもは傲慢さが滲み出ている顔に、少年のような無邪気な笑顔を浮かべた。初めて見るその表情は、感じたことのない感情と共に俺の脳に深く刻み込まれた。

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