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 その衝撃は重さを伴って俺の体へとのし掛かり、 急激に重くなった肩はその重量に耐えきれず、花咲の方へ伸ばしていた腕を机に(したた)かに打ち付けた。 「っつ……!」 「おはよー!」  肘の骨から指先の方へ伝う痺れるような痛みに悶絶する俺の頭上から、朝から元気すぎる声が降ってきた。戸田の勢いに体を後ろへ反らした花咲が、ぎこちない笑顔を浮かべて言葉を返す。 「お、おはよう、静利君」 「っ……」 「あれ? もう一人からは挨拶がないなあ?」  俺の体に乗っかったままわざとらしくそう告げる戸田。机に押し付けられたままの腕が悲鳴を上げる。こいつ、俺が痛がってるのを分かっててわざとやってるのか。  ──それなら、お仕置きしないとな。 「……歯ァ食い縛れ」 「へ?」  呆けたような返事を耳に入れた直後、俺の怒りの頭突きが戸田の顎へとヒットした。   「んぎぃっ!」  相当な衝撃を受けたからか、奇声を発しながら戸田は顎を押さえてごろごろと教室の床に転がった。ふう、ちょっとすっきりしたな。 「永遠におやすみ」 「ッいっだい! 挨拶違いだよ聖ちゃん!」  上半身を起こして目に涙の膜を張りながら訴える戸田の頭をわし掴んで、ぐい、と顔を近付ける。顔を赤らめて、はわ、とよく分からない声を出した戸田の額に、思いっきり自分の額を打ち付ければ、ごん! と鈍い骨同士がぶつかる音が教室内に響いた。 「~~~っ!」  声にならない声で今度は額を押さえてのたうち回る戸田を見て、ようやく完全に溜飲が下がった。俺の石頭は中々強烈だろう。  花咲が心配そうに見つめる中、数分くらいばたばたと暴れ、ようやく戸田がうう……、と弱々しい声を漏らしながら起き上がる。 「聖ちゃんひどい……」 「俺も痛かったからな。わざとだろ?」 「報復が苛烈すぎる……」  大人しく花咲の机の横へ膝を立てて座り込んだ戸田の頭を、花咲が宥めるように撫で始めた。すると、戸田が膝小僧に顎を乗せて口を尖らせた。 「だって聖ちゃん昨日勝手に帰っちゃったんだもん……」 「お前、教室に居なかっただろ」 「先生に呼び出されてたの!」 「何やらかしたんだ」 「夏休みの宿題丸写ししたのバレた……」  もじもじとそう呟いた戸田に、俺は盛大な溜め息を吐いた。恐らく二学期の初日に写していた数学の宿題のことだろう。そりゃあ、赤点ギリギリの戸田がほぼ全部正解になっているノートを出したら、バレるに決まっている。  

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