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  「戦力としてはそんな感じかな。あとは水野君に関してなんだけど、厄介なことに向こうのトップと同じクラスなんだよね。しかも、一年のAクラスって特に『全知全能』側の人間が多いから、僕たち側だってバレると一番危ないの。だから、いっそ向こう側の人間としてしばらく潜伏してもらおうかなって思ってる」  花咲から手渡された水野のクラスの名簿に目を通せば、ほぼ全ての名前が丸で囲まれていた。これは司馬側の要員ということだろう。丸で囲まれていない名前は数名しかおらず、さらに水野以外は名前を二重線で消されていた。 「これ、二重線はなんだ?」 「『不良狩り』の被害にあった生徒だよ。Cクラスとかだと軽傷の人が多かったんだけど、Aクラスは実力がある分徹底的にやられたみたいで、その人たちはみんな今入院中なの」  花咲の説明を聞いて、思い返されるのは会長の痛々しい姿。力の強さとタフさが裏目に出たということか。ちょっとやそっとでは倒れないから、倒れる程のダメージを負わされる羽目になったのだ。  確かにこれは四面楚歌というレベルではない。敵の本陣に丸腰で投げ入れられたようなものだ。敵だとバレた瞬間、それこそ命が危ない。  「でも潜伏って……ようはスパイってことか? 危なくないのか?」 「クラスを変えてもらう訳にはいかないし、下手に敵対するより安全なはずだよ。スパイみたいに情報を渡してもらう訳ではないから僕たちと接する必要もないし、バレるリスクも低いと思う」  花咲から放たれる言葉に、不安による揺れは全くない。頭脳派の花咲がここまで自信を持っているなら、大丈夫だろう。それ以外にいい方法も思い付かない。 「そうだな、そうしてくれ」 「オッケー! そう言ってくれると思って、実はもう水野君には伝えてあるんだよね」  へへ、と茶目っ気たっぷりに笑った花咲に、俺も自然と頬が解れた。  そうしているうちに、予鈴のチャイムが教室に鳴り響く。机の上の名簿を一つにまとめて鞄にしまいながら、花咲は俺へと話しかけた。 「とりあえず、僕から伝えたいのはそれくらいかな。僕、寝不足だから授業中寝ちゃってるかもしれないけど、そのまま寝かせといて」  それを聞いて、ふと今朝のことを思い出す。  久々に、静かに目を覚ますことのできた朝だった。一番近くで迷惑をかけてきた花咲には、伝えておくべき事柄だろう。

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