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「はあ……あいつらまとめんのもいい加減だりぃな」  司馬は目にかかる髪を鬱陶しそうに掻き上げ、はあ、と大きな溜め息を吐く。  それに反応したのは、二番目に姿を見せた生徒だった。後ろ姿では分からなかったが、茶色の前髪を上げて赤色の細いカチューシャを付けている。顔立ちは花咲を少し男らしくしたような感じだろうか。しかし、表情は似ても似つかないほど悪どい。  口に咥えていたらしい棒付きキャンディーを手に持ち、その生徒は司馬を下から覗き込むように首を傾ける。 「そーちょーがちんたらやってるからじゃね?」 「ちんたらしてる訳じゃねえよ」 「でも矢野(やの)の言うとおりだ。いつ動くんだよ、智斗瀬」  ウルフヘアーの生徒が強張った声を出した。確か、あいつは司馬に出会った日に俺たちに絡んできた奴だ。名前は──樋山、だったか。  矢野と樋山に順番に視線を移した司馬は、もう一度大きく息を吐き出した。 「お前らも待てができねえのか。橋立(はしだて)を見習えよ」  司馬が顎で長身の生徒を指す。橋立と呼ばれた生徒は、何かを言うわけでもなく小さくこくりと頷くだけだった。  見るからに機嫌が悪くなった矢野が、キャンディーを一気に半分ほどガリッと噛み砕く。 「こいつはロボットだから命令がないと動けないだけじゃーん」 「……俺は人間だ」 「うっせー黙っとけポンコツロボット!」  地面に落ちた細かい欠片を踏み潰して、矢野は橋立に中指を立てた。司馬はやれやれといった様子で空を仰いでいる。  なんだあいつら、仲間じゃないのか?  眉を寄せた俺と同じような表情になった樋山に、司馬は片方の口角を吊り上げて口を開いた。 「まあそろそろ動くつもりではいたからな。せっかくここまで追いかけて来たんだ、存分に楽しませてもらわねえと」 「……殺すだけじゃねえのか?」 「目に見えてるもんを潰すのはありきたりだろ。先に心を潰してやんねえとな」  くく、と喉を鳴らす司馬の言葉が、真冬に吹き(すさ)ぶ寒風のように俺の体を芯から震えさせる。  俺が自分のことに無頓着なのは中学時代から分かっているはずだ。そんな俺の心を潰すというなら、自ずと手段は限られてくる。例えば──身近な人物の不幸。  最悪の想像が脳内のスクリーンに映し出されて、俺は思わず息を詰めた。続いて出そうになった声を、橘がすかさず後ろから俺の口を手で塞いで抑え込む。  顔を背後に向けた俺に、橘は「我慢しろ」と声のないまま口を動かした。了承の意として二度瞬きを返し、再び司馬へと視線を向けると、一瞬目が合ったような感覚を覚えた。反射的に壁の内側へと引っ込み、十二分に注意を払いながら慎重に再び顔を出す。先程こちらを見ていたと感じた司馬の目は、全く別の方向を向いていた。勘違いだったならいいが。

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