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 あまりにも気持ち良さそうな顔をしていたものだから、そのまま頭を撫で続ける。戸田の後ろに見える尻尾の影がぶんぶんと振り回されていた。 「神沢先生は?」 「さっきまでいたんだけど学園に戻っちゃった。他の先生方に説明しなきゃって。ここの三人もそうだけど、他のみんなも暴れまわったもんだから、怪我人が多くて……今日は臨時休校になりました」  ははは、と苦笑いを浮かべる花咲。暴れまわったと言われた鈴木が、悪びれる様子もなく口を開く。 「あいつらいつもの鬱憤晴らす感じで暴れてたもんなぁ」 「お前が一番暴れてただろ。俺の方にポイポイ投げ飛ばしやがって」  長谷川が腕を組みながら不機嫌そうな表情で低く唸った。鈴木は慌てたように長谷川に向かって首と手を同時に横に振る。 「いやあれ静利が投げてきたんだよ! 俺はキャッチアンドリリースしただけ!」 「だって邪魔だったんだもん……」  俺の手を頭に乗せたまま、長谷川と鈴木から責めるような視線を受けた戸田が口を尖らせた。人を投げることをさも当たり前のように言うこいつらに、雉ヶ丘学園の異端さを垣間見る。さすがに俺でも人は投げないぞ。 「みんなのお陰で、しばらくは大人しくなりそうだけどね。DやEクラスの生徒にやられたなんて、あの人たちからしたら屈辱でしかないだろうから、やり返しに来る元気もないんじゃないかな」  花咲の言葉に鈴木がまあなー、と同調する。あまりクラス間の関係性を把握してはいないが、話しぶりから察するに、A、B、Cクラスの奴らは俺たちを見下していたと言うことだろう。  ここでは罪の重さが絶対──初日に花咲や鈴木が言っていた言葉だ。罪の重さをステータスに威張り散らしていた奴らには、相当きついお灸だったに違いない。  戸田の頭を撫で続けていた左腕がさすがに怠くなり、ベッドの方へ戻した。戸田が物寂しげにその手を視線で追ったが、気付かないふりをした。 「そういえば、よくあそこが分かったな」  誰かに伝える暇も余裕もなく、単身乗り込んだ体育館。あと一秒でも橘たちの到着が遅れていれば、水野はあのまま餌食になってしまっていたかもしれない。いや、本来はそうなっていたはずだった。  俺の問いに、花咲が一瞬びくりと肩を跳ねさせて答える。 「あ、えっと、それね、黒矢君に聞いたんだ」 「ああ、そうか、黒矢は大丈夫か? あいつ、襲われて……」 「うん、大丈夫。落ち着いてるよ。……今は少し藤原君に会う勇気が出ないみたいだけど、ここには来てるから」  もう少し、待ってあげて。  花咲は眉尻を下げ、優しい口調でそう言った。  俺に会う勇気とは何だろうか。もしかしたら、自分が助けを求めたせいで俺が怪我をしたと思っているのかもしれない。巻き込んでしまったのは俺の方なのだから、気負わずに来てくれればいいのだが。  

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