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 掻き回した俺の髪を見て、橘は薄く笑みを浮かべてふん、と鼻を鳴らした。好きな子をいじめる小学生かこいつは。  はあ、と息を吐いて動かせる左手で毛羽立った髪を撫で下ろしていく。 「ったく無茶苦茶にしやがって……左手だけで整えるの難しいんだぞ」 「俺に頼れば良いだろ?」 「あのなあ……頼るっていうのはそういうことじゃないんだよ」  呆れを含んだ返事をした直後、こんこん、と扉がノックされた。俺が扉に向かって返事をするより早く、静かにドアがスライドする音が聞こえ、花咲が姿を現した。 「お待たせ、買ってきたよ」  手に持っていた麦茶のペットボトルのフタを開けて、はい、と手渡してくれる。ベッドのリクライニングを起こして有り難くそれを受け取った。 「ああ、悪いな。ありがとう」 「ううん。あれ? 陽太君たちは?」 「あー……ちょっと事故があって席を外してる」  理由が理由なものだから正直にいうわけにも行かず誤魔化すと、ふうん、と含みを持った相槌が返ってきた。内心冷や汗をかきながら花咲をチラ見しつつ、麦茶を渇いた喉に流し込む。花咲からしつこく訊かれたら誤魔化しきれる自信はない。どうか花咲が興味を持ちませんように、という祈りが天に通じたのか、花咲は特に深堀りすることなく、「そういえば」と話し始めた。 「ロビーに桑山先輩がいたよ」 「あの人が?」 「うん。伝言があってね、『俺が殺す前に死ぬんじゃねえぞ』って。藤原君ってなんか危ない人に好かれるよね……?」 「好かれてる訳じゃないと思うけどな……」  どこまでもぶれない桑山先輩にぎこちない笑みを浮かべて、ペットボトルを花咲に手渡す。フタを閉めて傍の棚に麦茶を置くと、花咲は真剣な表情で俺を見た。 「で、もう一人、藤原君に伝えたいことがある人がいます」  畏まった口調でそう言うと、花咲は扉の方へ歩いていく。そして、誰かを後ろに引き連れて戻ってきた。 「黒矢……」  花咲の後ろから来た人物の名前を呟く。俺の呼び掛けに、黒矢はびくん、と身体を跳ねさせた。俯いているせいで、もさっとした髪に顔がほぼ隠れているが、微かに見える口元が震えている。黒矢の後ろには、付き添いなのか白谷がいつもの仏頂面で佇んでいた。 「……まだ怖いか? 襲われたあとだし、無理しなくていいぞ」 「………ちが……、違うんです……っ」  俺の気遣いに、ぶんぶんと黒矢の頭が左右に振れる。否定の言葉を形作った声は、か細いながらも叫んだような熱を孕んでいた。何が違うのかが分からない俺は、困惑を顔に出しながら黒矢の言葉の続きを待った。

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