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「抱き締めたり、手握ったりしてたけど……二人ってもしかして特別な関係だったりする?」  その質問の意図を、いつも花咲の妄想話に付き合わされている俺は真っ先に理解した。こいつ、この状況でBLとやらを白谷と黒矢に当てはめて妄想しようとしてるな? 「え、えっと……」  花咲の言葉の意味を理解できていないらしい黒矢が、助けを求めるように白谷へ視線を移す。白谷はいつもの仏頂面を保ったまま、黒矢に注いでいた視線を花咲へと一瞬だけ向けた。しかし、何の反応もせずに再び黒矢へとその瞳が戻る。  恐らく白谷も理解できていないのだろう。橘を含め、この場にいる人間は恐らくBLとやらを知らない。不本意ながら、俺以外は。 「あー……相手にしなくていい」  戯れ言だから、と続けようとした俺の口が開いたまま動きを止めた。白谷が黒矢の後頭部を掴んで引き寄せ、その唇に自分のものを合わせたからだ。ただ触れた訳ではない。黒矢の口を食わんとするかのように、ちろりと見せた紅い舌を、目を見開く黒矢の口の中へと捩じ込んでいく。  何を見せられているんだ、俺たちは。 「ッん、ぅん……っ!」  ぎゅっと目を瞑る黒矢の顔が、急速に朱く染まっていく。鼻に抜ける声がどんどんと荒くなり、限界を訴えるように黒矢の握られた手が白谷の胸に押し付けられると、ようやく二人の間に隙間が生まれた。  解放された黒矢は荒い呼吸を繰り返しながら、白谷の身体へと頭を倒す。黒矢をふわりと受け止めた白谷が、花咲にもう一度視線を寄越した。 「……黒矢は俺のものだ」  外見に似つかわしくない低音が放たれ、二度目だというのに驚いてしまった。白谷がやけに鋭い視線を向ける先に視界を移せば、花咲は感極まったように両手で口元を多い、瞳をキラキラと輝かせている。 「え……これ、現実……? 僕、夢を見てるのかな……?」  震える声に滲む喜悦。これは、まずいスイッチが入ってしまったかもしれない。すぐさま橘のシャツの裾をくいくい、と引っ張って耳打ちする。その間に、花咲は口から離した手をわなわなと震わせて、黒矢たちにずい、と身体を寄せた。 「寡黙な美人攻めに訳有り平凡受け! しかも受けからの矢印が大きいと見せかけての攻めからの激重感情パターン!! この学園基本ヤンキーが多いから平凡受けってかなりレアだし美人攻めに関してもやっと現れたと思った藤原君も全然他の人に興味なさそうだしまあ橘君とはラブラブっぽいんだけど正直ここ出るまではそんなCPは妄想で我慢かなって思ってたけどこんな近くに最高の素材が来るなんて僕ちょっと得積みすぎたかもしんないしかも生でこんな近くで激しいキスまで見せて貰えるなんて僕の人生もしかして今日で終了しちゃうのかないやここまできたら是非ともセッあだぁ!」  花咲の呪文を橘の手刀で強制終了させた。きっちり脳天に入ったらしく、花咲は頭を押さえながらしゃがみこんで、うぅー! と言葉にならない唸り声を上げている。もうちょっと早くに止めてくれても良かったんだがな。俺が橘とラブラブとか戯れ言ほざいている辺りとか。

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