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 時計の針が垂直に並ぶ頃、看護師が俺の夕食を運んできた。看護師は神沢先生に気付くと、鈴木が目を覚ましたと教えてくれた。神沢先生と長谷川は、鈴木の様子を見るために看護師と共に病室を後にした。  ふわりと漂う食欲をそそる匂いに、昼飯を食いっぱぐれた腹は、ぐうぐうと鳴り響いている。残った五人──いや、黒矢は緊張が解けたからか寝てしまっているし、白谷はそんな黒矢をじっと見つめているから実質三人だ──からの視線を感じつつ、俺は目の前に置かれた夕食に早速手をつけ始めた。  利き手の右手が使えないことを考慮してだろう、お盆には箸ではなくスプーンとフォークが置かれている。左手でフォークを掴み、ぎこちない動きでロールキャベツに突き刺してかぶり付く。  いつもより味気ないその味に自然と眉間に皺が寄った。普段花咲の料理を食べ慣れているせいで、舌が肥えてしまったらしい。 「なんか聖ちゃんちっちゃい子みたい」 「うるさい」  にやにやと笑う戸田に言い返して、無心で食べ進める。味が違うだけで、ここまで食事は楽しくなくなるものなのか。  雉ヶ丘を卒業すれば、その先に待っているのは牢獄だ。これよりも酷い食事になるのは目に見えている。そんな最悪な未来を想像するだけで、俺の食欲はみるみると鳴りを潜めてしまった。  突然食事の手が止まったことに気付いたらしい橘が、俺の左手首を緩く掴む。 「食べさせてやろうか?」 「別にいい」 「照れなくていいぞ」 「照れてない!」  ちょっかいを出してくる橘の手から左手首を引っこ抜き、再び手を動かして食事を再開しようとする。しかし、何やら不穏な視線を感じて顔をあげれば、花咲がきらきらと輝く目で俺を見ていた。 「あーんされてる藤原君見たい! あーん!」 「俺も! こいつは嫌でしょ? 俺がしたげるから」  橘を指差す戸田の左の人差し指に、すうー、と橘の手が伸びた。そのまま橘の手中に収められた戸田の指が、普段曲がる方向とは反対側へ動かされる。 「いだだだだ! いたいいたいいたい!」  バタバタと暴れ出した戸田の口から悲鳴が飛び出した。橘は少し不機嫌そうな顔でむっと唇を尖らせている。 「藤原は俺のだ。俺がやる」 「はあ? 聖ちゃんはEクラスの天使なんですーお前みたいな悪魔は釣り合わいでででででッ!」  見事に物理的なカウンターを食らっている。これ以上戸田に喚かれると廊下に響くので、橘にやめるよう伝えれば、渋々といったように橘は戸田の指を離した。  解放された指をぶんぶん振りながら涙目でギッと橘を睨む戸田と、戸田からの視線を無視して俺を凝視してくる橘。さっきまで騒いでいた花咲も、そんな二人を見て苦笑いを浮かべている。ほんとにこいつら、相性が悪すぎるな。  居心地の悪い空気の中、何とか腹の中へ食事を詰め込み終わった。

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