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 翌朝。  異様に重たい瞼をゆっくりと開けた。薄暗い部屋の中で、カーテンの隙間から漏れ出た朝陽が一筋の線になって俺の足元あたりを照らしている。  寝起きの頭はしばしその状況の整理に苦戦し、ようやく自分が悪夢を見なかったことを把握した。 「……本当に橘じゃないと駄目なのか……」  悪夢を見なかったことに関しては多大に安堵したが、橘とこれ以上性行為紛いのことをしたくないという気持ちが安堵に浸りたい気持ちを邪魔してくる。これ以上橘に触られれば、自分が自分でなくなってしまう気がする。  何はともあれ、絶叫することなく朝を迎えられたことは喜ばしい事実だ。  しかし、頭が重い。いや、頭だけではない。身体全体が物凄く怠い。下手をすれば悪夢を見た時よりも酷い倦怠感。そんな今まで感じたことのない怠さに唸るような息を吐き出しつつ、日の光を部屋に取り入れるため、身体ごと右へ向いて、右肘を支えにしながらゆっくりと重たい身体を起こす。  そうしてベッドの上に座する状態になり、ふと違和感を覚えた。 「………………?」  本当に僅かな心のざわめき。それが何なのかまでは分からないが、何かがおかしい気がする。そう、何かが────。 「…………………………あ?」  朧気な視界に映る、右腕を覆う布。それが何なのか、そしてその布がある理由を脳が理解した瞬間、ぞわりと背筋に悪寒が走った。  何故。何故、今、  無意識だったから?  いや、違う。意識を向けてみても、感じる痛みはほんの少しだけ。改めて右肘をベッドに押し付けてみても、押されている感覚こそあれど、昨日感じていたはずの脳天を突くような痛みはない。肘の詳細な状態はギプスのせいで確認できないが、感覚から言えば、ほとんど。  となれば、右肘は粉砕骨折しているという俺の認識と、実際の俺の右肘の状態は、凄まじく乖離していることになる。  突然起こった有り得ない身体の変異に、頭はパニック状態だ。  痛覚がおかしくなったのか。しかし、それなら押されている感覚すらないはずだ。あの意識を飛ばしそうなほどの激痛が、ほとんどないのだから。  何故、何故、何故。  疑問ばかりが脳内を埋め尽くす。考えれば考えるほど、頭は重くなり、ふらりと意識を手放しそうになる。 「おはようございます」 「っ!」  不意に背中に投げかけられた言葉に、身体を跳ねさせて振り向いた。昨日とは違う看護師が、病室の扉のところに立っている。  看護師は俺の大袈裟な反応に申し訳なさそうな表情をして、近寄ってきた。 「すみません。ノックしたんですけど、聞こえませんでした?」 「あ………………」  ノックの音すら聞こえないほどパニックになっていたらしい。他人の介入で少しだけ冷静になった思考が、辛うじてその問いに頷きを返した。

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