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昼食を挟んで、橘との話はその後も続いた。夕方には花咲たちも課題というお土産と共に病室に訪れて、和やかな雰囲気をもたらしてくれた。晩御飯のあとは戸田たちをまず病室から追い出して、また橘にトイレで抜いてもらった。戸田や花咲から放たれる視線に晒されたくなかったからだ。
次の日も、そのまた次の日も、この一週間ずっと橘は病室に朝から晩まで入り浸った。ずっと話し続けているわけではなく、話題がなくなることももちろんあった。そんな時は決まって橘が俺に触れて、その温かさに負けた俺が眠りに落ちるということを繰り返した。橘が懸命に俺の吐精を管理していてくれたおかげか、入院中に悪夢を見ることはなかった。
「明日は午後に顔を出す」
絶対安静を守るための一週間の入院の終わりを明日に控えた日。この日も面会時間ぎりぎりまで病室にいた橘が、帰り際にそう告げた。
「別に明日はいいぞ。どうせ退院なんだし、わざわざ来る必要ないだろ」
「だからこそだろ。学園に戻ってくるんだから、護衛した方がいい」
「護衛って……」
大袈裟すぎるだろ、と呆れた顔を橘に向けるが、橘はそう思わないらしい。今までの経験からこれ以上言っても橘の心は変わらないと悟り、了承の意を伝えた。
「俺がもし遅れても先に帰ってくるなよ。絶対に此処にいろ」
「分かった分かった」
それだけ気にするなら午前中に来ればいいのにとも思ったが、それを言ってしまえば橘の迎えを受け入れているようで出かけた言葉を呑み込む。
「じゃあ、また明日な」
「ああ。気を付けろよ」
こうして橘の背中を見送るのも今日で終わりだという微かな安堵に気づかないふりをする。
扉が閉まって病室に独りになる。特段することもないが、まだ眠気は襲ってこない。少しでも早く眠りにつけるようにと布団に潜り込んだ。
カチカチと時計が針を刻む音が病室に響く。それに異音が混ざったのは、布団に入って一時間ほど経った頃だった。
足音らしき小さな振動が鼓膜を揺らす。微かにしか聞こえないが、確実に近づいてきている。
誰か、来る?
看護師にしては足音が小さすぎる。まるで歩いているのを気付かれたくないような、そんな音。
ふと先ほどまで聞こえていた足音が消えたかと思うと、扉をゆっくりと開く音が耳に入る。神経を尖らせていなければ聞こえないほど静かに。
誰が来たのかが分からず、布団に顔を埋めるようにして息を殺して身構える。
しかし、誰かが近付いてくる気配はない。扉を開ける音を最後に、何も聞こえなくなってしまった。
感じた存在自体が気のせいなのか、それとも扉を開けて中を確認して去ったのか。どちらにしろ、現状を確認するために恐る恐る布団から顔を出した瞬間、
「初めまして」
見たことのない顔が、俺の視界に飛び込んできた。
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