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「でもどうやってキレさせるんだ? 煽ればいいのか?」 「単純に煽るだけじゃ本気で怒ってくれないと思う。それぞれの性格とかは大体把握したから、今から伝えることを参考にしてもらえたら。上手くいくかは賭けだけど……」  そう言って、花咲は机の上に置かれた写真を指差した。他のメンバーよりも頭一つ抜きん出た、無表情の男。少し前の写真なのだろう、今とは違い高校球児のように綺麗に丸められている。 「橋立智弘(はしだてともひろ)。『全知全能』の用心棒。体が元々大きくて、小学生の時から年上相手にも猛烈な強さを誇ってたみたい。司馬君より一つ上で、同じ高校の先輩だね。今回捕まったきっかけの抗争では、投げ飛ばした相手が建物の壁に頭を打ちつけて、未だに意識不明の重体になってる。二人いっぺんにね」 「二人……? 片手ずつで一気に投げ飛ばしたってことか?」  いくら体格がいいとは言え、既に体が出来始めている男子高校生を片手で投げられる人間はそう居ない。長谷川の眉が無意識に歪んだ。 「そう。その現場を見てた抗争相手が証言してる。何でもないような顔をして、総長――司馬君を狙った二人を一気に投げ飛ばしたって。正直この人が一番ヤバいんじゃないかなとも思う」 「で、そいつはどうキレさせればいいの?」  身を乗り出したのは戸田だ。 「黒矢君によれば、橋立君は司馬君に付きっきりで何でも言うことを聞いてるらしいの。恐らく司馬君に心酔してるんだと思う。だから、司馬君を貶せば怒ってくれそうな気がする」 「……なんか小学生のケンカみてえだな、それ」 「そのレベルでも引っ掛かってくれそうだけどね。橘君を見てたら」  若干呆れ顔の鈴木の言葉に、花咲は視線を橘へと移しながら返答した。その視線を辿って、この場に集まっている人間の視線が橘に集中する。 「……ん? 俺がどうかしたか?」  一拍遅れてその状況に気付いたらしい橘が少しだけ顔を顰めた。不満そうな目で見られた花咲が、橘に問い掛ける。 「橘君、喧嘩相手に藤原君の悪口言われたらどうする?」 「殺す」 「ほら」  即答。思考時間など微塵もなく放たれた答えに、周りの人間は苦笑いしたり、溜め息を吐いたり様々な反応をする。 「俺はこいつの方がこえーわ……」  橘の隣に腰掛けていた鈴木が、若干青褪めた顔で頭を片手で抱えながら橘から少し距離を取った。

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