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 口には出さないものの、周りの反応を見て更に渋い顔をした橘に向かって、申し訳無さそうな顔をしつつ花咲がまた口を開く。 「キレてくれたらラッキー程度でいいよ。もしダメなら……まあ漣君なら色々言葉も立つし大丈夫でしょ」 「おい、俺がこいつの相手するのか」  長谷川に降りかかった突然の指名。ついさっき『一番ヤバイかもしれない』と聞いた人物だ。ならば、こちら側の最大戦力である橘が相手をするものだと決めつけていた。 「むしろ漣君以外は相手できないんじゃないかな? 橘君は地蔵対決みたいになっちゃうし、静利君はそれこそ小学生みたいなことしか言えないだろうし……」 「おっとー? 俺にケンカ売ってる~?」 「まあ事実だしな」  花咲の言葉に戸田が口を尖らせる横で、鈴木がニヤリと笑いながら同調した。長谷川は、うっ、と言葉を詰まらせる戸田をから視線を外して花咲へ戻す。 「口が立っても腕が立たなけりゃ意味なくないか?」 「漣君は十分強いと思うよ? 時間さえ稼いでくれれば陽動の方から応援もいけるし、危なかったら引いても大丈夫だし……」  長谷川の感じている不安を読み取ったのか、語尾と共に花咲の眉尻が下がっていく。その下にある大きな瞳に薄く走る赤い線と、長い睫のものにしてはくっきりと色濃く刻まれた眼窩の影。 「……分かった、期待はするなよ」  ただ言われたとおりに動けばいい長谷川たちとは違う。作戦を考えて指示を出す花咲の小さな肩には、藤原始め、DクラスやEクラスの面々の命がのし掛かってる。  たかが学生の喧嘩かもしれない。されど、犯罪者同士の殺し合いに近いのは間違いない。  長谷川の返答に、花咲の眉がぴんと跳ねた。同時に安堵の表情が、長谷川の視界に現れる。しかし、すぐにまた眉をハの字にして、花咲が(まく)し立てた。 「あの、ほんとに無理はしなくていいからね! 危ないと思ったらすぐ逃げてね、それから──」 「分かってるから安心しろ。俺だって多少頭は使える。お前ほどじゃないけど」  最後の言葉を口角を上げて発すれば、花咲は一瞬だけその大きな目を丸くして、ようやく長谷川と同じように笑みを(たた)えた。 ──……

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