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めり、と凶器と化した拳が長谷川の顔のど真ん中を抉る。紙一重でかわしてきたそのエネルギーが、勢いそのままに長谷川へと突き刺さる。その行為を長谷川の脳が辛うじて認識したのは、莫大な威力に吹っ飛ばされた自身の体が数メートル先の壁に叩きつけられてから数秒後のことだった。
「っ、あ……?」
気付けば壁に背を預けて座り込んでいた。焦点は合わず、眼球が好き勝手な方を向いてぼやけた視界を映し出す。視線の先にある茶色い床に差す赤が、ぴちゃ、と水滴のような音を規則的に立てていた。
自分が今まで何をしていたのか、そんな簡単なことさえ思い出すのに時間を要した。朦朧とする長谷川の脳に直近の記憶が途切れ途切れに映り、そうして自分の置かれた状況を理解する。
「……あ、ァが、……っ、い……!?」
橋立に殴られた。その事実を脳が認識した途端に、顔面から伝わる灼熱の衝撃。あまりの痛みの大きさに、伝える神経すら焼き切れそうに思える。まともな言葉が発せない。意識を手放してしまいたいのに、押し寄せる激痛の波がそれを阻止する。しかし、まともな思考は働かない。
カツン、
雲がかってはいるが、地面から音が伝わってくる。ゆっくりと長谷川へ近付いてくる、死へのカウントダウン。
足音が近付く度、徐々に長谷川の視界が暗くなっていく。逃げようにも、司令塔にダメージを負った体はぴくりとも動かず、それどころか意識さえ今すぐにでもどこかへ飛んでいきそうなほどに脆い。
何も言葉を発しないまま、長谷川に覆い被さる影は、その足先を長谷川の視界に若干入れた状態でぴたりと足を止めた。
「……………………」
一瞬の静寂の後、突然長谷川の視界に太い腕がにゅっ、と飛び出してくる。そんなイレギュラーな状況にさえぴくりとも反応出来なかった長谷川の体が、胸元を引っ張る力によって重力を無視して宙に浮いた。
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