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凄まじい力は衰えることを知らず、むしろ徐々に増している。対照的に、既に戸田の腕は限界を超えていた。想像以上の圧力に、食いしばっている歯から生み出される嫌な振動が骨に伝わる。このまま押し合いで勝てるとは思えない。どうにか頭上にある足を退かそうとしても、一瞬の緩みも許されないぎりぎりの状態だ。
何か手はないかと頭をフル回転させる。しかし、ただでさえ防戦のせいで血が昇っている脳内に、特にこの状況を打破できるような妙案が浮かぶことはなく、視界の中で徐々に大きくなっていく自分の腕を精一杯その場にとどめようとすることしかできない。
もしこれが、防ぎきれなかったら。
そんな最悪の未来が戸田の脳内を一瞬過 った瞬間、なんとか気力で踏みとどまっていた防衛線が決壊した。反発力を失った腕が、今まで必死に抗っていた重力を伴った凶器となって、戸田の頭目掛けて落ちてくる。
「――っ!」
避ける暇などない。反射的に目を瞑ることすら許されなかった。出来ることと言えば、ただ呆然と、その瞳に絶望を映すのみ。
戸田の視界が闇に染まっていく。運が良ければ意識を飛ばすくらいで済むだろうか。否、この男は戸田の息の根を止めるまで、それこそ自身の気が済むまで蹂躙し続けるだろう。顔の凹凸が少しでも残っていれば御の字か。
せめて、聖ちゃんが俺だって判別できるくらいで勘弁してくれよ。
「……ははっ」
短い人生の最期に、思わず笑いが溢れた。
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