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【幕間】恋文――ある女の言い分――
一目ぼれだったの。
配達の人なんて今まではおじさんか、若くても小太りだったりダサかったりで、まさか恋愛対象になるだなんて夢にも思っていなかった。
配達車に乗っているあなたはいつも何処か遠くを見ていてけだるげで。
そんな何処か斜に構えたようなところがぐっときたの。
ああ、彼とどうにかしてお近づきになりたい。
でもたまたま道で見掛けただけで、私の家に配達に来るわけじゃないからどうすれば話が出来るのかも解らない。
そうだ、配達の人は皆集配局から出て戻るんだから、あそこに行けばいいのか。
それからは夕方になるとバイクが沢山とめてある辺りを、道路の向こうから眺めて待つことにしたの。この思いの丈を伝えたくて、手紙も書いたし準備は万端。
でも帰ってくる時間って結構バラバラみたいで、それに敷地内には流石に部外者は入れなくて、どうしようって思ってた。
そうしたら、ああ!
まさか短大の友達があの人の友達と知り合いだったなんて!
早速お願いして会えるようにしてもらったの。私はテニスなんて出来ないけど、彼が好きなら好きにならなくちゃと思ってラケットもシューズも買った。
友達が出してくれた車でいっぱいしゃべれて幸せだった。
もう一人、一緒についてきた女がいなけりゃもっと楽しかったのに。あのお邪魔虫め。
私のあの人に色目使わないでよ!
いかにも遊んでいるような感じで、人の男に手を出さないで!
ああでも幸せだった。やっぱり彼は私の方が好きなのね。だってあの女とは全然口も利かなかったもの。
でもまだ油断は出来ないわ。どうにかしてもっと彼の傍に行かなくちゃ。
ちょっとちょっと、あなた私の味方じゃなかったの!
家の場所を訊かれたからって、どうしてあんなアバズレとの仲を取り持つようなことするのよ、嫌な人ね。
あらそう、いなかったの。それは当たり前よ。どうせあの女は他の男と遊んでいるんでしょうよ。
良かったわ、私のあの人が汚されなくて。
これで彼も私の方が一途に好きだってこと、ちゃんと解ってくれるかしら。
そうね、そろそろちゃんと言わなくちゃ。
今日は素敵なことがあったの。
そうよ、ようやくあの人とひとつになれたの。
初めてだからちょっぴり大変だったし痛かったけど、でも幸せだったわ。
どうせならゴムなんてつけなければ良かったのに。
ああ、早くあの人の子供が欲しい。
そうしたら、本当にあの人は私のものね。
早すぎるなんてことはないでしょ。誰だってママは若い方がいいと思うわよ。
他の誰とも遊びたいなんて思わないわ。
あの人と毎日ずっと一緒にいたい。
抱き締めて大好きだよって、愛しているって言われたいわ。
そうよ、まだ言われていないの。
でも大丈夫、だって何度でも抱いてくれるから。
いつかその内きっと言わせてみせるわ。だって、私しかあの人の妻にはなれないもの。
だからちゃんとあの人の職場の人たちにも、婚約者だって伝えてあるの。
ええ、そうですとも。私しかいないもの。
もう、あの人の周りにはどの女もうろついていない。
良かったわ、何も言わなくても、解ってくれる人ばかりで。
だってどう見ても私の方がお似合いだものね。
付けなくてもいいって言っているのに、律儀なひとね。
きっと婚前交渉は隠したいのね。順番が大事なのかしら。
でも、あなたは貯金もないって言っていたし、きっと自分からは踏ん切りつかないわよね。
だから、理由なら私が作ってあげる。
簡単よ、きっかけなんて、ほら。
あなたと出会ったことが一番の奇跡なんだから、それ以外のことはとっても簡単。
ほら、あなたはもう、逃げられない。
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