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幼き誓い 10

「はい、冬郷家でございます」 「もしもし、瑠衣か。随分と気取った声だな」 「……珍しいね。海里《カイリ》から電話なんて」 「イギリスから帰国したんだ」 「そうか」 「……向こうでアーサーが寂しがっていたぞ」 「……そう」 「なんだ、そっけないんだな。そんなにそこの執事の仕事がいいのか」 「……そうだよ」 「一度位、会いに行ってやれよ」 「それは、なかなか難しいよ……執事に休みはない」 「フンっ! お前は相変わらず強情だな」  電話の向こうの海里は、そのまま押し黙ってしまった。  強情とか、そういうわけではないんだ。  今の僕は……身動きが取れない。  由緒正しき冬郷家で、この若さで執事に抜擢され、可愛い二人の子息のお世話係まで任されているのだから、責任重大だ。 「まぁいいよ。勤め先が決まったから教えておくよ。一度会おう」 「分かった。メモするよ」    海里からの電話を切ってから、この家に来る前の英国にいた頃に思いを馳せてしまった。  「アーサー……」  久しぶりにその名を呼んだ。  口に出せば蘇る。  彼の狂おしいまでの熱情を受け入れた日々を。    執事になるために英国留学させられた僕が出逢った彼は、実地研修のために住み込みで働いた貴族の館の一人息子だった。  僕たちはあっという間に恋に落ちた。  想い想われ……愛し合った日々。  だが研修期間が終わり……日本から勝手に就職先を決められ強制的に帰国させられ……プツリと途絶えてしまった恋だった。  あれからもう3年が過ぎたのか。  なんだか変だな。  今宵は、人恋しい気持ちが僕にも込み上げてくる。  旦那様と奥様が珍しく外泊されているからなのか。  少しだけ開放的な気分になるのは。  いつになく私情に溺れてしまう。  いけないと思いつつ、逆に今日位はいいだろうと、書庫の奥に隠しておいたウイスキーに手を伸ばした時だった。  けたたましく呼び鈴が響き、子供の悲鳴が聴こえた!

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