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幼き誓い 18
「にーさま!」
その日の午後、瑠衣と一緒に雪也が入院している病院にお見舞いに行った。
雪也は僕の顔を見るなり、いつもの砂糖菓子のように甘く弾ける笑顔を浮かべてくれたので、ホッとした。
もうすっかり元気そうだ。夜中に見た、まるで死神に取り憑かれたように苦しげな顔付きは影を潜めていたので、ほっとした。
「雪也……よかったよ。兄さま、何も出来なくてごめんな」
「そんなことないよ。にーさまは、あたたかかったもん」
僕はベッドに近寄り、小さなぬくもりをぎゅっと抱きしめた。
「ふふっ、にーたまぁ、だいしゅき……」
舌っ足らずの鈴の音のような声。
僕に包まれた雪也は、白い雪のように清らかにあどけなく笑った。
「柊一、少しいいか」
「はい、お父様」
病室にいた父に呼び出され、病院の屋上に行った。
足下には雪が積もっていて、とても寒い場所だった。
どうしたのだろう?
何故このような場所に……
父は静かに振り向いて、僕に誓いを立たせた。
「柊一、お前は冬郷家の長男だ」
「はい」
「弟の雪也はお前より10歳も年下でまだ3歳だ。先ほど重い心臓病を抱えていることが分かった。この先は激しい運動も出来ず、病院に通う日々になるだろう。中学生になったら手術を受けられるといいのだが……とにかく、柊一、雪也のことを頼んだぞ」
「はい。僕がずっと守ります。雪也を必ず幸せにしてみせます」
「あぁ私たちに何かあった時は、雪也にはお前だけが頼りだ。しっかり勉学に励み人徳を身につけ、この家を守る人間になると誓って欲しい」
父の顔は真剣だった。それだけ雪也の病が深刻だと理解した。
「父様、誓います。必ず――雪也を守り通します」
「ありがとう。お前はまだ13歳と幼いのに、過酷な運命を背負わせて悪いな」
父の目には、光るものがあった。
降り続いた雪が積もった病院は、まるで白亜の城のようだった。
そんな清らかな朝に、僕は幼き誓いを立てた。
『幼き誓い』 了
あとがき(不要な方はスルーでご対応ください)
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こんにちは、志生帆海です。ここまで読んでくださりありがとうございます。
だいぶ登場人物を整理出来たかと思います。おとぎ話をモチーフにした緩やかな始まりでしたが、沢山の方に読んでいただけて嬉しいです♡
リアクションを毎日ありがとうございます。
更新の励みになっております。
さて幼少期編はここで、おしまい。次は柊一が22歳を迎える時までワープします。萌えをつぎ込んで行きたいです。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
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