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予感 7

 瑠衣はきっと驚く……  突然の解雇宣告を受けるなんて、青天の霹靂だろう。    でもお前にとって悪い話ではない。だって新しい勤め先は……お前を求めているよ。とても……強く、深く。  僕はもう一度中庭に出て、うろうろと歩き回った。少し心を落ち着かせないと……父と誓ったこと内容、その重圧に負けてしまいそうだ。  すると朗らかな声が門の外から遠くから聞こえた。 「柊一さん!」 「あっ白江《しろえ》さん」  お向かいのお屋敷の一人娘の白江さんは、僕の幼馴染の女の子だ。母同士が仲良しで、僕たちも同い年なので気が合うので、よくこうやって話しをする。 「雪、すごいわね! 」 「あぁ」 「んまっ! 澄ましちゃって。前は一緒に雪合戦してくれたのに」 「もうそんな年じゃないよ」 「そうね。お互いね……」  いつも明るく溌溂としている白江さんなのに、いつになく声が沈んでいる。 「どうかした?」 「ん……私はもう短大の女学校を卒業したでしょう。そろそろ決まりそうなのよ」 「何が?」 「もうっ疎いわね」 「?」 「お見合いよ。お父様もお母様も乗り気でね、嫌になっちゃうわね。あーなんだか籠の中の鳥みたい! 」 「白江さんはお転婆だから籠を壊しそうだよ」 「まぁ柊一さんったら、言ったわね!」 「ははっ」  良家に生まれるということは、それだけ柵が多いのだ。 「結婚したら……寂しくなるよ」 「あら、私はお嫁にはいかないわよ」 「どういうこと?」 「お婿さんを迎えるのよ。一人娘だからね」 「そうか。それなら僕たちずっと一緒だね」 「うーん、それはちょっとよろしくなくてよ! もうっ柊一さんは本当に男女の色恋に疎いのね」  男女の色恋か……僕にはまだ経験がないことだ。  学校から直帰するのが日課だった。弟の雪也の遊び相手、話し相手が第一優先だったし、跡継ぎとしての勉学も忙しかった。  22歳になっても接吻すらしていないと言ったら、白江さんは笑うだろうか。  いや……何だかイメージ出来ないな。  僕が女性に口づけを? 思わず白江さんの顔をじっと見つめてしまった。 「もう。変な柊一さんね! そんなにじっと見ないでよ。照れるじゃない!」 「あっごめん」 「もしかして私にキスしてみたいの?」  色白な肌に薔薇色の頬……白江さんは姫のように、とても美しいと思うのに、そういう気持ちにはならない。本当にどうかしている!   「えっ」 「冗談よ。ふふっ。でも……今となっては少し思うわ。あなたと許嫁も良かったかも!これからもいい幼馴染でいてね」 「勿論だよ。雪也共々よろしく」  本当は……僕は自分の心が分からない。  何を求めているのか。昔、何かを求めていたような気がするのに、もう忘れてしまった。  現実が毎日が、あまりに忙しすぎて──       **** あとがき(不要な方はスルーです) せっかく本棚に入れてくださったのに、ここまで、まだふたりが出会わず なので、萌えもなく……なのにスターを毎日贈ってくださって応援嬉しいです。ものすごく励みになっています。 長編化したお陰で……短編で描けなかった柊一の生い立ちや雪也との兄弟の絆、そしてもう一つのカップルアーサー×瑠衣 など、長編ならではのリズムでゆっくり書くことが出来ています。 こういう背景を含めてのふたりなので、後程、この部分がいろいろスパイスになっていくと思っています。出会いもしない、じれじれ話にお付き合いくださってありがとうございます。話が進めば進む程、萌えを投入したいと思っています。どうぞ引き続きよろしくお願いします。 ちなみに今回登場した白江さんは『重なる月』というお話で、だいぶ後になりますがバッチリ繋がる人です。その時は来たら、きっとおお!っとなるはずです。どうぞ、お楽しみに♡    

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