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予感 8

 あまりに突然の解雇宣告に動揺しながら、自室に戻って来た。  こんな状態……誰にも見せられない。  きっと今、泣きそうな顔をしている。  雪也さまを手術室に送り届け、その後の成長も見守る予定だった。  柊一さまが家督を継がれる日まで、サポートするはずだった。  なのに……何故だ。    旦那様の言葉に耳を疑った。  冬郷家の財政がそんなに傾いている事を執事の僕が把握していないなんて、どうなっているのだ。そこまでの大損失なのか。僕がここを去って指示された場所へ行くことで少しでも貢献できるのなら、やはり去ることを選ばなくてはならないのだろう。  ベッドに腰かけたまま茫然としていると、部屋をノックする音が響いた。  この特有なリズムは柊一様だ。  彼は成長するにつれ、まるで僕を友人のように扱い、たまにこうやって部屋に訪ねて来てくれる。    とても人の感情に敏感で優しい方なのだ……柊一さまという方は。  幼い頃から見ているので、僕にはよく分かる。 「瑠衣、入ってもいいかな」 「どうぞ」  部屋に入ってくるなり、柊一さまは、握ったままになっていた封筒を指さした。 「瑠衣、この中身を読んだ?」 「……まだです」 「僕だってお前と離れるのは寂しいよ。でもね、もう……僕も22歳だ。瑠衣がこの家にやってきたのは、もっと若かったはずだ。僕はもう成人して大人になった。だから瑠衣には、気兼ねなくここから羽ばたいて欲しいんだ」 「なぜ……そのように寂しいことを?」 「それはね……瑠衣の次の職場が英国のロンドンだからだよ」  え……どういうことだ?  新しい勤め先がロンドンって……偶然なのか。  アーサー、君がいる街に、この僕が行くのか。 「お前が行きたかった場所じゃないのか。そこは」 「そこ……?」  慌てて封筒の中身を取り出して確認すると……更に驚いた。  行先はアーサー自身の元だった。  彼の専属執事になるようにという通達だった。  信じられない── 「何故……ご存じなのですか」  柊一さまに慌てて問うと、彼はその綺麗な顔を綻ばせた。 「大丈夫だよ。僕は詳しい事は知らない。でもね、これだけは知っている。定期的に届く瑠衣宛のエアメール。差出人はこの人。だがお前が封も切ることは一度もなかった。なのに捨てることはせずに、大事そうにベッドの下に積んでいることもね」 「なっ何故それを」 「ごめんなさい。以前、雪也が見つけてしまったんだ。その……『かくれんぼ』をしていて……その人はお前の大切な人なんだろう? 10年以上に渡り返事がないのに手紙を寄こし続けるなんて」 「うっ……」 「いいんだよ。行っていいから……行っておいで。瑠衣」  10歳も年下の柊一様の言葉が、あたたかくて優しくて……不覚にも涙が一筋だけスッと流れてしまった。    予感……  僕の予感は、これだったのか。

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