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予感 9
柊一さまが去った後、ベッド下のトランクに詰めたアーサーからの書簡を取り出してみた。
一番古い日付は13年前。
流石にだいぶ黄ばんでいるな。
この白い封書は最近届いたものだ。
どちらも未開封だ。
ロンドンの彼の元……いつ戻れるかわからない場所だと切り捨ててきた僕には、その権利はないと思っていたから。読めば会いたくなると思ったから……開封できなかった。
震える手で封を切り、一番新しい手紙を読んだ。
「あっ……なんてことだ……本当に海里の言った通りだったなんて。アーサー……君がまさか病に侵されているなんて。僕は何も知らずに、いや知ろうともせずにいたなんて」
改めて先ほどの僕の新しい職場の通知を確認すると、アーサーが住んでいたロンドン市内のタウンハウス ではなく、ノーサンプトンシャーにあるカントリー・ハウスの方だった。
アーサーの手紙と、辻褄が合ってしまう。
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ルイ……
お願いだ。俺の元に戻ってきてくれ。
今……俺は田舎で静養をしている。
近頃とても不安になる。
このままルイに今生で会えないまま、死んでしまったらどうしようと。
だから君に軽蔑されるかもしれないが、強硬な手段で迎えに行く。
どうか頼む。受け入れてくれ。
あの夜二人で愛を交わしたノーサンプトンシャーの古城で待っている。
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