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予感 11
その晩、異母兄弟の海里にだけは、僕の事情を知らせた。
僕は実家では爪弾きにされているから、どこで働こうが誰も気に掛けないだろう。だが海里だけは違う。ロンドンで僕たちの愛を黙って見守り、応援してくれた彼には告げないと。
「海里……」
「どうした? 沈んでいるな」
「僕はロンドンに行くことになったよ」
「なんだって? 」
「アーサーの病気……よくないんだな」
「そうか、ようやく向き合ったのか」
「アーサーの元で働くよ。彼専属の執事として」
「そうか、それがいい。お前は、ここまで頑張ったよ。よく我慢したな」
海里からの暖かい言葉に、泣けてくる。
「雪也さまのことを……どうかくれぐれも頼む」
「あぁ分かっている。だが俺も実はちょっと事情が変わってな」
「何? 」
「実は来月から急に一年間、医学留学に行くことになってな。今度はドイツだってさ。まったく親父のワンマンには参るよ」
あ……まただ。嫌な予感……を感じてしまった。
今度はとても不吉な予感だ。このタイミングで頼りにしている海里まで外国に行ってしまうなんて。本当に大丈夫なのだろうか。
「そうなのか……心配だな」
「大丈夫だ。きちんと引き継いで、戻ったタイミングでまた主治医に戻れるようにしっかり手配してあるから、安心しろ」
「頼むよ、大事なお子様なんだ」
「あぁ分かっている。彼は本当に天使のように清らかな子供だ。雪也くんは成長と共に治療の効果もあり病状も落ち着いているから、向こう一年間は大きな問題もないはずだ」
「それなら、よかった」
「瑠衣……きっと急に日本を離れることになって、色々心残りもあるだろうが、お前は今までずっと頑張ってきたんだ。だから遠慮なく飛び立てよ!」
海里の言う通りだ。
心残りなら、山ほどある。
何が最善で何が最悪だなんて、その時には分からないものだ。
どうか柊一さまと雪也さまが幸せになりますように。
冬郷家が、益々繁栄しますように。
そう願うしか出来ないのを、どうかお許しください。
「瑠衣、行ってこい、行けよ!」
「海里……」
海里に背中を押してもらいたかったのかもしれない。
僕と違って自由に生きている君に。
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僕は13年勤めた冬郷家を後にした。
二人の尊いご兄弟、温厚な旦那さま、美しい奥様に見送られ、日本を離れた。
生涯お世話になると思っていたのに……
明日のことは、何一つ分からないものだな。
予感は、予感でしかない。
あの時感じた予感が、どうなるのか。
未来は何も知らされていない。
第1章 幼少期『予感』 了
あとがき(不要な方はスルーで)
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志生帆海です。切ない展開が続いていますが、応援、本当にありがとうございます。
モチベーション保つ原動力になっています!そろそろ『まるでおとぎ話』短編の時間軸に沿って、ようやく展開できそうです。
第一章はここまで。長いプロローグ的な内容になってしまいました。
長編化するにあたり……思いがけず誕生したキャラクター、アーサーと瑠衣の恋のなれそめやその後は、落ち着いたらスピンオフで書いてみたいです♡
ちょっといろんなシーンが点在しているので、線で結んであげたくなりました。
次回から本編メインストーリーのエンジンかけていきます!
私は主役ふたりのラブを早く書きたくなってきましたので、頑張ってコンスタントに更新していきますね。
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