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愛しさと悲しみ 3
「兄さま。あの……」
「どうした?」
ベッドで本を読んでいると、ノック音が聞こえた。
扉を開けると先ほど寝付かせたはずの雪也が、枕を抱えて立っていた。
「あのね……」
もじもじと言いにくそうにしている様子が愛おしくて、目を細めてしまう。
春に中等科に上がったばかりで、ついこの前まで小学生だったのだ。
病弱な躰で母に溺愛されているせいか、こんな寂しい夜は慣れないようだ。
「いいよ、こっちにおいで」
ベッドに手招きすると途端に花のように微笑んで、トコトコとやってきた。
「いいのですか」
「いいよ」
「怒られないかなぁ」
「誰も知らないよ、僕たちだけの秘密だ」
「兄さまっ、大好き」
「おいおい」
照れくさくも、嬉しいひと時だ。
血の繋がった弟の温もりを抱いて、眠りにつく。
「兄さまのベッド久しぶりですね。それにしても……お母様たち……お帰りまだですか」
「そうだね。今日は遅くなるから先に休もう」
時計を見るともう23時を回っていた。
何しろ箱根からなので、帰りは零時は余裕でまわるだろう。なのでそう気にも留めず、雪也を安心させることに努めた。
「さぁもうお休み」
「はい」
「ん……何を持って?」
「あっ何でもないです」
雪也が枕の下に本をしまおうとしたので、怪訝に思って確認すると……それは僕が昔あげた絵本だった。
「これ……」
「恥ずかしいです。僕はもう中等科にあがったのに、いつまでも絵本なんて持って」
「そんなことないよ。雪也には希望を持って欲しい。そのために……絵本はとても大事な役目を持っているんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。僕が久しぶりに読んであげよう」
「本当ですか! 兄さま、本当に大好きです」
「その代わり、読み終わったらすぐに眠ること」
「ハイ、守ります!」
久しぶりに開く絵本は、僕が愛してやまないあの本の内容だった。
雪也の3歳の誕生日に僕が贈ったもの。
こんなにボロボロになるまで読み込んでくれたのか。
両親を一度に失ったお城のお姫様は、それまでの生活が一変してしまい大変苦労する。いつか王子様が……希望と夢を支えに必死に生きているが、どんなに頑張っても頑張っても現れない。やがて、とうとう希望が現実になる時がやってきて、お姫様は王子様に救われる。
よくあるおとぎ話の王道のストーリーだが、どこか他の作品とは違って、いつまでも胸の奥で僕の心と呼応する……不思議だな。
「あー終わってしまった。この続きが、すごく気になって」
「うん?」
「幸せになった続き、もっともっと読みたいと思って」
「そうだね。僕もそれを知りたいよ」
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