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愛しさと哀しみ 4

「おやすみ。雪也」 「おやすみなさい、兄さま」  久しぶりに雪也と手を繋いで眠った。  夜中にふと目を覚ますと、雪也とまだ手をしっかり繋いだままだった。僕の手を掴んで丸まって眠る雪也の様子が可愛らしくて、改めて弟とは……心から愛おしい存在だという想いが込み上げてきた。   「人のぬくもりって、温かいんだな」  小さい頃はよくこうやって一緒に眠った。  懐かしいな……すっかり忘れていたよ。  ところが寝返りを打とうとした拍子に、急に体がゾクっと震えた。  あ……何だかとても嫌なことを思い出してしまったようだ。  ずっと記憶の底に沈めていたあの日のことを。  3歳の誕生日を迎えたばかりの雪也に、今日みたいに絵本を読んで共に眠りついた。あの時も……お父様とお母様は箱根に出かけていた。でもあの日は泊まって来ることになっていて……  あれが……雪也が初めて心臓発作を起こした日だ。  何だか嫌な予感がする……無性に心配になってしまった。  どうして僕はこんな真夜中に帰ってくるという話をそのまま受けてしまったのか。  雨の中の運転……まして山道は危険だろう。  朝日が昇ってからでも遅くないです。  どうしてそう進言しなかったのか。  今更後悔しても仕方がないのに、考えれば考える程怖くなってくる。  早く──早く帰って来てください!  時計の針は零時をまわり間もなく1時になろうとしていた。  自宅に戻ってくる車のエンジン音が聴こえないか、必死に耳を澄ます。  すると突然屋敷が騒然とし出した。  一抹の不安が過っていく。  廊下の灯りがついて、バタバタと慌ただしく走る足音が聞こえてくる。  一体何事だ?  反射的にナイトテーブルの呼び鈴に手を伸ばしてハッとした。  そうだ……瑠衣はもういない。  瑠衣……こんな時にお前がいてくれたら、どんなに心強かったか。  いやそれは考えるのはよそう。瑠衣は関係ない、もう関係ないのだから。  雪也が起きないように、そっとベッドを抜け出しておそるおそる廊下に出てみた。 「何事だ? 」 「あ……その……」  ちょうど僕の部屋をノックしようとしていた年老いた女中頭の顔は、蒼白だった。 「何が起きた?」 「……でっ電話がありました。……私は信じられませんっ」  そのまま泣き崩れてしまったので、話が出来る人を探しに廊下を走った。  父の執務室に行くと、使用人たちが集まってた。  皆……僕を見た途端、気の毒そうな表情を浮かべ、一斉に目を伏せた。  

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